※本記事は「ステロイドを断罪して離脱させよう」という趣旨は一切ありませんのでご理解下さい。むしろ必要な時はしっかりと使うことに賛成という立場であることを先に申し上げておきます。
院長の木村です。
質問です。
ステロイドって怖いですか?副作用は心配ですか?
本記事を読んでいただいている方には、ご自身の犬猫がステロイドを使っていたり、将来必要になるかもしれなかったり、もしかしてご自身が内服されている方もいるかもしれません。
私は獣医師ですので「人とステロイドの関係性」を解説する立場にありませんが、動物のものに対してはそれが可能です。
ステロイドを使う意味とそのリスク、副作用の予防方法が知りたい方のご理解に本記事が参考になれば幸いです。
ではいってみましょう!
ステロイドとは
ステロイドとは『合成副腎皮質ホルモン剤』です。
さぁいきなり訳分かんない単語が出てきました。
でも安心してください。1個ずつ解説していきます。
人も動物も副腎という1対(合計2個)のちっこい臓器が体内に存在します。
副腎は皮と実の部分(皮質と髄質)に分けられるのですが、その皮部分から放出されるステロイドホルモンで、それをマネて化学合成した薬が『合成副腎皮質ホルモン剤』ということです。
※ホルモンというのは血液に乗って全身を巡り、色々な臓器に様々な影響を与える生理物質の総称です。
ステロイドはホルモンの一種ですので、狙った臓器以外にも広く影響を及ぼしてしまいます。
この期待していない影響がマイナスとして体に働くことを『副作用』と呼びます。
ステロイドの種類
動物の治療で使われるステロイド成分の大半は『プレドニゾロン』です。
これは成分名(※)ですね。
※りんごでいえば紅玉とかジョナゴールドみたいなものです
さて、剤形的(※)な意味ではどんな種類があるでしょうか?
※先の例ではジュースかジャムかみたいなものです
- 内服薬(飲み薬):錠剤、粉末剤(散剤)
- 注射薬:皮下(筋肉内)注射、静脈注射、その他
- 気道薬:厳密にはこんな分類ありませんが便宜上…
- 外用薬・点耳薬:皮膚への塗り薬
- 点眼薬:眼疾患に使用
皆さんが気になる剤形はどれでしょうか?
ステロイドには成分として共通する副作用もありますが、実は剤形の違いで出てくる副作用もあります。
ステロイドに共通する副作用と可能な対策
まずステロイドに共通する副作用と、可能であればどういった対策・予防策が取れるのかを解説していきます。
多飲多尿
早速ですが予防できません。
休薬することによって、長ければ1ヶ月程度かけて徐々に正常化していきます。
冷たい水を一気に飲むと下痢することがありますので、飲むスピードや一度に飲む量はヒト側で調節しましょう。
ただし、尿を減らそうと飲水量自体を制限しても脱水するだけで体に良い影響はありませんので注意してください。
大型犬で夜中にトイレに連れ出すのが大変ということであれば、朝イチに飲ませて日中に一番効かせておくという手段が有効です。
また、この副作用のせいでトイレが間に合わず普段ならしない粗相をしてしまう可能性もありますが、それに対しては怒らないであげてください。
多食
同様に予防できません。
ステロイドの基礎代謝を下げる作用も相まって太りやすくなりますので、可能であればフード量を制限したりダイエットフードを混ぜることも考えましょう。
肝臓への負担
長期使用やガッツリ使う時には避けられません。
ただし、その負担をなるべく減らすために肝臓保護系のサプリを併用することは有用です。
肝臓への負担は動物ごとに違いが大きいため、ステロイドを連続使用する間は定期的に肝数値をモニターすることで悪化する前に気づくことができるでしょう。
胃粘膜障害
胃粘膜が胃酸で荒れて胃潰瘍を起こすことがあります。
副作用を避けるためのデータには議論がありますが、粘膜保護剤(プロトンポンプ製剤やH2ブロッカー、スクラルファート)やプロナミド®︎を併用します。
筋肉が減る・脂肪が増える
残念ながら予防できません。
多食と合わさって太りやすくなりますのでカロリーバランスには注意してください。
また長らくステロイドを使用している動物やシニア動物では筋肉と体重のバランスが崩れ、転んだり体勢を崩して関節を痛めることがあります。
滑りにくい環境を準備したり、自宅内での段差を少なくすることでそういった事故をなるべく予防することが可能です。
筋肉が減る+他の副作用でお腹がポヨンと中年太りのようになるのも特徴的ですね。
皮膚が薄くなる
主に外用薬で発生する副作用です。
皮膚が薄くなると、炎症を起こしやすくなったり裂けたりする危険性が増えてしまいます。
ステロイド外用薬は基本的に赤くなった皮膚に塗りますが、厄介なことに副作用も似たように皮膚が赤くなります。
副作用で赤くなったことに気づかずに余計に頑張って外用薬を使ってしまって、、という悪循環に陥ることがあります。
これを避けるためには、まずこの『ステロイド皮膚症』があることを知ること。
そして継続的にステロイド外用薬を使用する場合はこまめに病院の診察を受けることです。
もし強い(Strong以上の)ステロイド外用薬を連続して使う場合には、2週間ごとに診察を受けることをおすすめします。
ステロイド皮膚症は休薬することで徐々に治っていきます。
血糖値が上がりやすくなる
長期的(1ヶ月以上)にステロイドを使用する場合は警戒すべき副作用です。
※糖尿病素因を持っている場合はもっと短いスパンで発症する可能性もあります
ステロイドは筋肉を分解して糖を作り出し、また肝臓から糖を放出させることで血糖値を上昇させます。
これが長期的に続いてしまうと、糖尿病を発症していく危険性があります。
長期的な使用の場合は肝数値と同様に定期的に血糖値をモニターするといいでしょう。
悪化傾向を早めに掴めれば、状況に応じて早めに減薬するという手段をとることができます。
免疫力が低下する=感染症にかかりやすくなる、悪化しやすくなる
基本的には避けられません。
長期の内服薬や注射薬を使用する場合は感染症に十分注意する必要があります。
ステロイドが抑えてくれる炎症というのは、言い換えると体の免疫力です。
理想は「過剰な炎症だけ抑えて本来の免疫力は残す」ことですが、その微妙なさじ加減が本当に難しいです。
ステロイドに起因した感染症は「気付きにくい」という厄介な性質を持っています。
通常の感染症は体が炎症を起こした結果、痛みやダルさなどによって症状に気づくことができます。
しかしステロイドで炎症を抑えつけていた場合、症状が無かったり軽かったりで感染症に気づきにくく、じわじわと体が蝕まれていくということがあります。
経験上では無症状の細菌性膀胱炎が多いので注意しましょう。
高血圧や心不全のリスクがある
メカニズムは完全には明らかにされていませんが、ステロイドが高血圧や心不全を起こしたり助長させる可能性があります。
10年以上臨床獣医師をしている私が経験した中で、明らかなステロイド投与の負荷を感じたのは末期の心不全症例1例のみでした。
ですので、どれくらい警戒すべき副作用かは正直お伝えしづらいです。
犬であれば「心雑音を指摘されながらも心臓検査をしたことがない」、猫であれば「洋猫の血を引いているなど隠れ心臓病リスクがある」場合では、事前の心臓検査をおすすめします。
副作用に関するまとめ
全ての種類・剤形のステロイドに共通して言えますが、断薬を過度に恐れたり治療結果に完璧を求めて過度に使うこと(※)は避けましょう。
※QOLが下がるレベルでも無いのに痒み行動ゼロを目指してステロイドを使い続けるなど
使うべき時は副作用を恐れずしっかりと使うし、使う必要が無ければ適切に減らし休薬していく。
ステロイドを効果的に使うにはメリハリを付けることが肝心です。
ステロイドの剤形特有の副作用
さて、ステロイドの一般的な副作用を理解したところで、剤形特有の副作用についてもまとめてみましょう。
飼い主として気を付けるべきものは外用薬ですので、そちらだけでもお読みください。
内服薬(飲み薬)
使うシーンが多くて期間も長いために副作用が出やすい剤形の一つです。
内服薬は口から入って腸で吸収され血液に乗って全身を巡るので、それだけターゲット以外の臓器にも影響を及ぼしてしまいます。
「ステロイド共通の副作用はどれであっても出る可能性がある」と思っていただいて構いません。
内服薬特有の副作用
特にありません。
というより、「満遍なく出てくる」という表現のほうが正しいです。
内服薬だと何か副作用が出るというオーナー様の稟告があったので注射薬にした結果大丈夫だったという経験はありますが、科学的な因果関係はありません。
内服薬は腸で吸収されるために、病気で腸が弱っているとき(下痢や腸炎など)は吸収率が落ちます。
「思ったより効果が出てこない」というのは副作用とはちょっと違いますが、内服薬特有の問題・弱点ではあります。
またこれも副作用とはやや趣旨が違いますが、ステロイドは苦味があるせいで起きる現象が2つあります。
1つは、(特に猫で)投薬直後に口から泡を吹く・涎を垂らすことです。
これは神経症状ではなく苦味によるものですので、口の反応が治まるのを待つしかありません。
もう1つはステロイドの苦味を口で経験した動物が薬を警戒するあまりフードを食べなくなるということです。
こちらの対策としては、以下の通りです。
- 主食に混ぜない
- 新しいフードやおやつに対する興味で食べさせる
- 苦味を感じないような投薬補助アイテムを使う
- 食べ物を使わずに投薬する
投薬方法にお悩みの方は以下の記事も参考にしてみてください。
【獣医師監修】投薬方法の解説
【獣医師監修】投薬の心強い味方が登場!
【獣医師監修】猫に粒のまま投薬できる画期的アイテム!
内服薬の補足情報
一部の病院では、『セレスタミン®︎』というステロイド+抗ヒスタミンの合剤を使用している場合があります。
合剤という構造自体は全く問題ありませんがセレスタミンに含まれているベタメタゾンというステロイド成分が問題で、内服で投与するには作用が強すぎます。
効果が非常に強いし抗ヒスタミンという補助薬も含まれていますので痒み止めとしては強烈に効いてくれますが、肝臓や他の臓器への負担もかなり強くなります。
私はこの内服薬を動物へ投与するのは避けるべきと考えています。
注射薬
注射には「皮下注射」、「筋肉内注射」、「静脈注射」、「その他」があります。
一番オーナー様が目にする機会があるのは皮下注射ではないでしょうか。
筋肉内注射、静脈注射、その他はほぼ目にする機会は無いと思います。
注射薬の利点は、内服薬と違って狙い通りの用量を投与できることです。
また、どうしても内服薬を飲めない動物にとっても注射薬は強さを発揮してくれます。
ただし、通常使われる注射薬は1−1日半程度しか効果が持続しませんので、連続投与が必要である場合は連日の通院もしくは入院が必要になります。
※インスリンなど一部の薬剤は処方して自宅注射をしていただくことはありますが、ステロイド注射を自宅用に処方する病院はまずありません。
注射薬特有の副作用
特有の副作用というものは基本的にありません。
内服薬同様に、全身に効果を発揮してしまうためにターゲット臓器以外にも負担をかける性質があります。
経験上ステロイド注射薬が明確な刺激性を出すことはあまりありませんが、あえて言うのであれば筋肉内注射した場所に一時的な痛みを訴えることがあります。
この副作用は特に繊細だったり神経質な動物に多いですね。
ステロイドというより注射という行為での副作用という側面が大きいです。
注射による痛みは基本的に治まるのを待つしかありませんが、1日以上続くようであれば病院へ連絡しましょう。
注射薬に関する大切な補足情報
世の中には「デポ・メドロール®︎」という長期作用型(10-14日程度)のステロイド注射が存在します。
重症の口内炎(人が経験するような口内炎のレベルではありません)を持っていて、ステロイドの効果が切れた途端全く食べなくなり衰弱していく猫が稀にいます。
そういった命に関わる場合のみ選択肢に入る注射薬です。
しかし、この長期作用型ステロイドを使用している猫の多くでは糖尿病を発症し、元の病気と並行して生涯続く糖尿病管理をすることを余儀なくされます。
もし仮に「薬が飲めないから」という程度の理由で長期作用型のステロイド注射を受けている動物がいたら、その副作用と注射で得られるメリットを天秤にかけて使い続けるかどうかを改めてかかりつけ医と相談してください。
ちなみに現時点で、当院では長期作用型のステロイド注射を採用しておりません。
気道薬
※気道薬とは分かりやすいように説明した造語で、調べても情報は出てきませんので注意してください
人では緊急のステロイド吸入薬をイメージするかもしれませんが、動物では『ネブライザー(ネブライジング)』で使用します。
霧をモクモク焚いて吸入する、耳鼻咽喉科にあるアレですね。
ネブライザーでは内服薬と違い、『デキサメサゾン』という別のステロイドを使用します。
ネブライザーの利点は強制的にステロイドを気道内に効かすことができて、なおかつ内服薬と比べると副作用が非常に少ないことです。
また気道薬は、即効性に優れていたり目的臓器への作用を強く出せるメリットもあります。
気道内から体内に吸収されるステロイド量はわずかですので、全身には効かせにくい動物に対しても使いやすい剤形と言えるでしょう。
反面、効果の持続性にやや欠けるのが難点です。
気道薬特有の副作用
特にありません。
「気道内での感染症では使用しない」という原則はありますが、これはステロイド自体の免疫力を低下させる性質から来るものであり、気道薬に限った話ではありません。
外用薬・点耳薬
皮膚科で使われる剤形になります。
使用目的は皮膚の炎症を止めて痒みを抑えることです。
ステロイド成分単独の製剤もあれば、抗生物質や抗真菌薬を含んだ合剤もあります。
外用薬は、含んでいる基剤(※)によって軟膏・クリーム・ローションという分類がされています。
※有効成分を溶かすための成分と思ってください
点耳薬も広い意味では外用薬の一種であり、性質や副作用が似通っていますのでまとめさせていただきました。
外用薬と点耳薬の唯一の違いは、長期作用型の製剤があるかどうかです。
昨今では優れた長期作用型の点耳薬が開発され、世に送られ始めています。
それらは長期の内服や長期作用型の注射と違い、全身への副作用が出にくいことが大きな利点と言えます。
外用薬・点耳薬特有の副作用
ステロイドの強さは以下のように分類されていて、それぞれの強さの製品が分かれています。
- Strongest(ストロンゲスト):獣医療では使いません
- Very Strong(ベリーストロング)
- Strong(ストロング)
- Medium(ミディアム)/Mild(マイルド)
- weak(ウィーク)
人では、皮膚の部位によってどれくらい効くかどうかがはっきりとデータで示されていますが動物ではそういったデータはありません。
ステロイドは本来、◯◯の皮膚には〜〜くらいの強さでといった使い方をされなければいけませんが、データがない影響で動物ではそのような使い分けができません。
そういったデータ不足も影響しているのでしょうが、動物ではステロイド皮膚症というものがしばしば起きます。
ステロイド外用薬は作用の強さや使用期間によっては、塗っている場所の皮膚が薄くなったり赤く湿疹のようになる副作用が起きることがあります。
これを『ステロイド皮膚症』といいます。
ステロイド皮膚症はとにかくステロイドを休薬することが肝であり、さらに言えばステロイド皮膚症と気づくことが重要です。
ステロイド皮膚症が疑わしい場合は獣医師に確認を取ってみましょう。
もう1点、外用薬特有の副作用としては皮膚への刺激性があります。
原則としては軟膏<クリーム<ローションの順に皮膚への刺激性が強くなります。
いわゆる”しみる”というやつですね。
動物では、”しみた”経験で外用薬を嫌い使えなくなるケースもありますので意外と侮れない副作用となります。
外用薬が嫌いな動物には使う製剤をクリームや軟膏系の刺激性の少ないものに切り替えてみるのも有効でしょう。
点眼薬
点眼薬も大きく分けると外用薬の一種ではありますが、他の剤形と比べると特徴がありますので分けて記載します。
ステロイドの点眼薬は軟膏と点眼液の2種です。
ただし、同じ呼び方でも皮膚や耳用の軟膏を眼に使ってはいけません。
通常は点眼液を使うことがほとんどですが、眼周りの皮膚に使えるようにあえて眼軟膏を準備している病院もあります。
点眼薬特有の副作用
点眼薬に限った話ではありませんが、全てのステロイド製剤は感染症に対して悪影響を及ぼす可能性があることを忘れてはいけません。
眼の病気には感染症を起こして炎症するものがあります。
それを炎症だけ抑えようとステロイドを使い続けると、本体の感染がさらに悪化してしまい結果的には眼がひどい状態になってしまうことがあります。
皮膚でも同じことが起き得ますが、眼という特殊な臓器で感染悪化が起きると失明や眼球摘出にまで及ぶことが大きな問題点となります。
皮膚が一時的にグチュグチュになっても適切な治療によって治すことが可能ですが、眼がグチュグチュになると取り返しがつきません。
動物たちは人ほどには視力に頼ってはいないとはいえ、もし失明すれば大きなQOL低下に繋がることは避けられません。
そういった副作用が悪い方向に強化されるのが点眼薬特有の欠点とも言えます。
眼に関しての対策は、自己判断で治療や休薬をしない・何か異変があったらすぐさま病院を受診する。
これに尽きます。
まとめ
ここまで読んでいただきありがとうございます。
なるべく分かりやすく記載したつもりではありますが、中には分かりにくかったり疑問に思う点があるかもしれません。
ステロイドの副作用についてご心配な方は自己判断でいきなり休薬したり減薬するのではなく、まずかかりつけ医と相談してみてください。
もしかかりつけ医の考えに不安がある場合は、それに対して他の病院に対してセカンドオピニオンを求めても構わないと思います。
それで意見が食い違えば双方を比較することができますし、一致するようであれば安心して治療方針を相談することができるようになるのではないでしょうか。
当院ではステロイドに対して不必要な恐れや誤解を招かないようにしっかりインフォームドコンセントを取った上で処方させていただいております。
動物さんに使っているステロイドで何かご心配な際は、セカンドオピニオンとしても承っておりますのでどうぞお気軽にお問合せください。
皮膚科ステロイドの詳細を知りたい方はこちらもお読み下さい。
【獣医師監修】皮膚科でのステロイドの使い方
ステロイドの概要について知りたい方はこちらも併せてお読み下さい。
【獣医師監修】ステロイドの使い方と付き合い方を分かりやすく解説