院長の木村です。

今回は皮膚の痒みを抑えたり自己免疫疾患を治したりと活躍する最重要治療薬のひとつであるステロイドについて解説します。

まとめ

・ステロイドは治療の強い味方
・副作用がはっきりしているので乱用厳禁
・皮膚の痒みには代替薬あり
 

ステロイドとは

正式な呼び方としては「ステロイドホルモン」で、獣医療ではほとんどの場面で「プレドニゾロン」が使われます。

※ボディビルで話題になるステロイドは「アナボリックステロイド」と呼ばれ、成分が異なります

 

主な作用としては以下のものがあります。

  1. 抗炎症作用
  2. 免疫抑制作用
  3. 抗腫瘍作用

みなさんがよく見聞きすることが多いのは1の抗炎症作用になります。

皮膚の痒みを抑えたりするのもこちらの作用ですね。

他に2の免疫抑制作用で特殊な自己免疫疾患を治したり、ある種の腫瘍では3の抗腫瘍作用も発揮してくれたりします。

 

ステロイドは剤形として「内服薬」「外用薬」「注射薬」があります。

家で投与することになるのは基本的には内服薬と外用薬です。

ステロイド

左は内服薬、右は外用薬

ステロイドの副作用

「ステロイドは怖い薬」こんなイメージを持つ方も多いのではないでしょうか。

実際にステロイドの副作用はあるのか、出るならどういうものなのかを紹介しましょう。

 

まず副作用についてですが、残念ながらあります。

内服か外用かで副作用の出方やリスクが変わりますが、一般的には以下の副作用がよく見られます。

  • 多飲多尿多食
  • 嘔吐、下痢
  • 肝数値の上昇
  • 糖尿病
  • 筋肉の消耗

うーんこう見ると確かに怖いですね。

 

この中で特にクリティカルな副作用はズバリ「糖尿病」です。

長期でステロイドを内服すると糖尿病の発症リスクが上がります。

 

発症する動物は他の病気を持っていたり、肥満だったりと別の糖尿病リスク因子を抱えた動物が多いです。

一度本格的に糖尿病を発症してしまうと場合により生涯のインスリン注射生活になる場合もあります。

 

他にみなさんがよく心配されるのは肝臓への負担ですね。

これも実際によく起きていて、特にALPという肝酵素の一種が上昇することが多いです。

 

ステロイドを短期使用にとどめておけば、肝酵素が一旦上昇したとしても徐々に下がって正常化します。

しかしやはり長期で使用すると肝臓が腫れて持続的に負荷をかけ続けることになります。

 

他に、消化管への負担もかけやすいので嘔吐、下痢などの消化器症状が見られる動物もいます。

ステロイドの副作用とその対策について詳しく知りたい方は以下の記事もお読み下さい。

【獣医師監修】ステロイドの副作用を防ぐ!対策まとめ

ステロイドの効能

副作用だけ見ると、なぜこんな危なっかしい薬が古くからずっと使われているか不思議に思いますよね。

答えは「便利で唯一無二の薬だから」です。

ステロイドの効能の一部を代替してくれる薬は色々ありますが、ステロイドそのものの上位互換は現状ありません。

 

鎮痛薬や予防薬などは古い世代の薬は使われなくなってより良い、副作用の出にくい薬に更新されています。

しかし、ことステロイドに関してはおそらく未来にも使われなくなることはありません。

 

それほどにステロイドは動物を苦痛や命の危機から解放してくれる良い薬なのです。

使い方さえ間違えなければですけどね。

 

ステロイドは大雑把に言うと免疫の動きを止めて炎症を抑えにいく薬です。

アレルギー体質など免疫が暴走している状態を止めにいく。

皮膚で効けば痒みが治まるし、気管粘膜で効けば咳が止まります。

免疫が自分の細胞を攻撃してしまう自己免疫疾患は死と隣り合わせになることの多い重大な病気ですが、こちらもステロイドが第一選択です。

 

そして即効性が高いことも特徴です。

免疫抑制剤などはかなりゆっくり効き始めますがステロイドは内服でも数時間〜半日程度で効果が出始めます。

皮膚の痒みが強すぎて耐えられない時、今すぐなんとか病勢を抑えないと死んでしまう時、この即効性が本当に役立ちます。

 

一言で言うとステロイドはめちゃくちゃ良いお薬なのです。

どうやって付き合っていけばいいのか?

ステロイドは功罪はっきりした薬の一つですので必要以上に怖がってもいけないし、甘くみて乱用してもいけません。

当然ながら処方量、投薬間隔、期間は獣医師が判断します。


良い効果だけ頂いてなるべく早期に離脱したいところではありますが、ステロイドを休薬できない場合もままあります。

その時に大事なのは必要最低限量を見極めることです。

 

副作用を気にして最初からちびちび使っていてはいつまでも炎症は治りませんので最初はガツンとしっかり使います。

そして効果が出てきたら速やかに投薬量や間隔を減らしていって症状が再発しないギリギリを見極めるのです。

そのような使い方のほうが結果的にはトータルの投与量を減らせます。

 

もし、副作用が出てもステロイドをこれ以上減らすと再発するという時は他の薬への変更もしくは併用を考えます。

よくセットで出てくるのは免疫抑制剤ですね。

他には皮膚科では同じステロイドでも内服を減らして外用を増やしたりします。

 

ステロイドは効果と副作用、メリットとデメリットのバランスを見ながら獣医師と相談して上手に使っていきましょう。

 

皮膚科で使われるステロイド解説はコチラ

【獣医師監修】皮膚科でのステロイドの使い方