院長の木村です。
飼い犬や飼い猫が自宅で吐いてしまった時って焦りますよね。
連続で吐いたり、吐いたものがピンクっぽかったり。
特に動物病院が閉まっている夜間に嘔吐が起きてしまった・見つけた場合は一層のことです。
本記事では、犬と猫が吐いた時に動物病院へ連れていくべきかどうかの見分け方についてまとめていきます。
ただし内容はあくまで目安・一般論として考えていただいて、いつもと違う変調が見られた場合は経過観察可能と記載してあっても病院を受診ください。
動物のことを一番よく見ているあなたの勘はたいがいのシーンで正しいことは獣医師として保証します。
嘔吐と吐出の違い
※吐いているところを見ていない場合はスキップして次項目に行ってください。
まず確認ですが、あなたの見かけた嘔吐は本当の意味での嘔吐でしょうか?
嘔吐は通常、2−3回の胃収縮(ぐぽっぐぽっ音)の予備動作が有ってから胃内容物を吐き出します。
もし動物がその予備動作なしにいきなりどばっと吐物を出した場合は嘔吐ではなく『吐出』の可能性があります。
『吐出』は嘔吐と違って、食道のトラブルを疑う症状の一つですので吐出を疑うケースでは必ず近日中に病院を受診してください。
特にシニア犬ではホルモン異常から続発する巨大食道症が有名です。
吐出症状では各種のスクリーニング検査を行う必要があります。
もう1点、(ややこしいですが)実際には嘔吐であっても吐出のような予備動作なしで大量に胃液(飲んだ水より明らかに多い液体)を吐くことがあります。
その場合は腸閉塞を疑う症状になりますので、例え夜間であってもなるべくすぐに病院を受診してください。
吐いたものを確認する
まずは、発見した吐物の中身を確認して、それぞれの特徴ごとに判断していきましょう。
ピンク色や赤い点々が吐物に混ざっている
胃内からの小出血を思わせる症状です。
胃粘膜は毛細血管が非常に多い組織ですので、嘔吐行為そのものの刺激やちょっとした胃炎でも実は簡単に出血します。
動物が見る限りケロっとしている場合は半日程度絶食(飲水は控えめ)をした状態で経過観察するのはアリです。
ケロッとしているとは具体的に以下のような状態を指します。
- 顔つきや耳の向きがいつも通り
- しっぽの動きがいつも通り
- へそ天(仰向け)していたりゴロっと横になってリラックスしている
- いつも通りの活発さ・機嫌の良さである
- 水やフードを欲しがっている
半日ほど経過観察しても更なる嘔吐が無い場合は、ふやかしたフードやレトルトパウチなど胃に刺激が少ないものを少量頻回で与えてみてください。
それでも嘔吐した場合は元気であっても念のために病院を受診してください。
動物がしんどそうに見える場合は、胃のダメージが重症だったり他の併発疾患が起きている可能性もありますので早めの病院受診をおすすめします。
特にすでに基礎疾患を持って体調管理が難しい動物は、若い健康な動物が耐えられる症状でも脱水が進行して体調が悪化することもありますのでご注意ください。
吐いたものが赤黒い・茶色である
胃内からの中程度以上の出血が予想されます。
その吐物は明らかに血の臭いがしているはずです。
胃炎であっても潰瘍まで進行している可能性もありますし、別の重大疾患の可能性も考えられますので早急に病院を受診すべきです。
夜間であっても動物がぐったりしている場合は、ためらわずに夜間病院に連絡を取りましょう。
動物が普段食べているフード自体が茶色で血の臭いがしない茶色吐物であれば、通常の嘔吐として扱って大丈夫です。
吐いたものが黄色・緑色である
動物は我々人間よりも生理的な嘔吐がしやすい体をしています。
食欲旺盛な動物が、空腹時(次の給与タイミングの手前)に黄色い液を吐いた場合は生理的な嘔吐の可能性が高いです。
緑色の場合は過剰な空腹で胆汁が十二指腸から胃内に逆流している可能性があります。
1日1回給与なら2回に、1日2回給与なら3回に食事回数(トータル量はそのまま)を増やすと空腹時嘔吐を防ぐことができます。
複数個の吐物がある
例えば吐いた物が量的に「大(胃液orフード)・小(胃液)・小(胃液)」とあれば、1回吐いた後に胃に気持ち悪さが残って時間を置かずすぐさま2−3回吐いたかもしれません。
この吐き方は特に猫で見られます。
複数個の吐物があっても、動物を見る限りケロッとしている場合は少量ずつの水やフードを与えながら1日経過観察することが可能です。
ただし、ケロッとしていてもゴミ箱などが荒らされているなど誤食を疑わせる(もしくは誤食ぐせがある)場合は、経過観察をすると重症化する恐れがありますので注意してください。
誤食に関して詳細を知りたい方は下記の記事もお読みください。
【獣医師監修】誤食してしまった…病院ではどうやって吐かせているの?
吐いたものが大量である
吐いたものが胃液にせよフードにせよ、大量である場合は要注意です。
特に水分がほとんどで飲水量よりも明らかに多い吐物である場合は腸閉塞を起こしている可能性がありますのですぐさま病院を受診してください。
おそらくその場合は動物は大人しい〜ぐったりしている状態になっているはずです。
良い意味での例外は、ガツガツ大量に食べた直後(5−30分以内)に未消化のまま嘔吐するパターンです。
この場合に、ケロッとしている〜少し大人しい程度であれば1日程度の経過観察が可能です。
次回食事を与える際は普段の半量程度から(ふやかしや柔らかいフードで)再開することをおすすめします。
吐いたものに毛玉が入っている
犬ではあまり見られませんが、猫では頻繁にあります。
毛玉嘔吐そのものは生理的な嘔吐として扱われます。
動物が明らかにぐったりしている状態でなければ1〜2日の経過観察が可能です。
吐いた中に異物が混じっていた
時々、思いもよらぬ異物が吐物に混じっていることがあります。
その際はまずはかかりつけの動物病院に問い合わせすることをおすすめします。
動物の状態によっては検査や点滴などの治療が必要になる場合があります。
もう1点大事なことをお伝えします。
異物が混じっていたら「びっくりしたけど出て良かった」と安心するのが人の心情です。
しかし『まだ胃内に別の異物が残っている可能性』があります。
その後、数日〜1週間は動物の様子や排便内容に十分な注意が必要です。
獣医師としては、元気であってもできれば腹部エコー・レントゲンなどの検査で異常が無いか確認したいところです。
嘔吐回数による違い
嘔吐回数によって重症度を推測することも可能です。
単発の嘔吐であれば、生理的な嘔吐の可能性が高くなりますし、頻回に嘔吐している場合は重症疾患である可能性が上がっていきます。
※短期間(30分以内)に連続で嘔吐するようであれば、それは一塊で1回の嘔吐とカウントします。30分〜1時間以上の間隔が空いて嘔吐した場合はそれぞれ別の嘔吐としてカウントします。
どこまでが正常でどこまでが異常な嘔吐回数かは難しい話ですが、今までの生活での嘔吐回数/週から+2回以上であれば異常と判断してもいいかもしれません。
そこまで重症度の無い嘔吐であったとしても、気持ち悪さから頻回に吐いてしまう場合は脱水や体力消耗の悪影響がありますので薬剤にて嘔吐を止めにいく必要があります。
少し緊急性の話とは変わりますが、長期スパンで見て散発的な嘔吐が多い健康動物では食物有害反応(アレルギー)の可能性を考えます。
その際はフードを変えてみる、あるいは血液アレルギー検査を受けることをおすすめします。
動物の様子による判断
例外はありますが、原則として嘔吐+αの症状がある場合は病院受診を考えてください。
嘔吐+αとはつまり、嘔吐して元気がない・嘔吐して食欲が無い・嘔吐して下痢もしている・嘔吐して震えている・嘔吐して呼吸が荒いといった症状ですね。
嘔吐を見ると消化器疾患だけを考えがちですが、嘔吐というのはたいがいの病気で起きるようなぼんやりとした症状です。
+αの症状がある場合は胃以外、または消化器以外にも何か病気が隠れていないかを検査していく必要があります。
場合によっては隠れている病気が親玉のこともあります。
例)尿道閉塞や尿管閉塞では嘔吐が症状の一つ
夜間受診すら考えるレベルの+α症状は以下のようなものです。
以下に当てはまって、すぐにかかりつけ医を受診できない夜間では夜間病院に連絡を取ってみてください。
- 家族の誰が見てもぐったりしていると感じる
- 呼吸が荒い(震えるのも似たような理屈ですが呼吸が荒いレベルまでいくと急性腹症の可能性が高いです)
- お腹が張っていたりポヨンポヨン(波動感)している
- 頻尿でしかも尿が出ない症状がある
- お腹を触ろうとすると痛がる、噛みにくる
最後に
以上、いかがだったでしょうか。
嘔吐というのはそれ単独だけでは「ここが原因」と断定できない非常にぼんやりとした症状です。
しかし嘔吐を見つけた際は、原因が分からずとも「今すぐ病院に向かうべきかどうか」をまずあなたが判断する必要があります。
ここまで読んでいただいてまだ判断に悩むようであれば、再度一番上から記事を読み直してみてください。
1回で分からずとも2回読めばその嘔吐の緊急性が見えてくるかもしれません。
本記事ではなるべく一般的な飼い主様の知識量を想定して細かくまとめましたが、それでも全ての病気の可能性を網羅することはできません。
日中の動物病院が空いている時間帯で病院に向かえる場合には、問い合わせか受診いただくのが一番無難だということは改めて覚えておいてください。
不意の嘔吐が起きた場合に備えて当ページをブックマークしておくこともおすすめですよ。
お近くの方であれば当院へお問い合わせください。
※来院が難しい状況でのご相談は致しかねますのでご了承くださいませ。
たかつきユア動物病院(木曜・日曜・祝日休診 9:30-12:30、16:00-19:00)