院長の木村です。

 

先日久しぶりに誤食のわんちゃんを診察しました。

幸い素直に吐いてくれたので大事には至りませんでしたが、誤食は急性腹症にも繋がる危険な行為です。

 

そこで必要に応じて催吐処置を考える訳ですが、それを実施するかどうかは実は状況によって様々です。

 

動物たちが誤食してしまった時に動物病院ではどういった対応になるのかを紹介します。

誤食とは

食べ物ではないもの、もしくは動物にとって有害な食べ物を摂取してしまうことを言います。

 

前者はヒモ類やおもちゃ、後者は玉ねぎやチョコなんかが代表例です。

吐かせてはいけない誤食

意外と知られていないことですが、誤食したら何でもかんでも吐かせればいいというものではありません

 

爪楊枝、竹串など尖った硬いものを誤食してしまった場合、催吐処置によって胃や食道壁に刺さって穿孔を起こす恐れがあるので禁忌とされています。

 

穿孔を起こしたら開いた穴から体内(※胃や食道内は身体からすると外界です)に細菌が侵入し、菌血症→多臓器不全と致死的な経過を辿ってしまうかもしれません。

 

また、動物が喉元の麻痺などの基礎疾患を持っている場合もNGです。

他に誤食したものがガソリンや電池・漂白剤などは催吐処置の適応外になります。

吐かせる誤食の条件

原則としては誤食してから1−1時間半以内での処置にはなりますが、それ以上の時間が過ぎている場合や経過時間が不明な場合も状況により催吐を試みます。

 

実際だと帰宅したら誤食していたけどいつ食べたか分からないってシチュエーションは多いですからね。

 

そういう時は吐かせるデメリットと吐いた時のメリット、吐く可能性(誤食物のサイズやその前にご飯を食べているかなど)を勘案してオーナー様と相談します。

実際の手順

オーナー様より誤食した物の内容を確認し、催吐処置の適応でなおかつ吐かせられそうだと判断した場合に速やかに準備に取りかかります。

 

基本はレントゲンやエコーにて胃内の状況(身体検査で口腔内も)を確認しますが、その時の状況に応じて検査を追加や省略したりすることもあります。

 

まずは前準備として静脈ルート(画像の右前肢)を確保します。

 

留置

催吐と関係のないわんちゃん

 

「トラネキサム酸」という成分の注射薬を静脈注射します。

 

催吐薬剤1

 

この薬剤の「急速投与をすると吐く」という副作用をあえて利用して吐かせます。

安全性が高い薬ではありますが、高用量使用の場合は凝固異常などの副作用が出る可能性があります。

 

それでも吐かない子は、そこで催吐を諦めて便からの排出を待つか下の薬剤を追加で使います。

 

催吐薬剤2

 

こちらは「メデトミジン」という鎮静剤で、同様に嘔吐の副作用を持っています。

 

ただし、少量使用ではあるものの鎮静剤なので前述の薬剤より投与リスクが上がります

特に心臓の徐脈を起こすタイプの鎮静剤であるので元々心臓病を持っている子には使用できません。

 

他にもいくつか候補の薬剤はありますが当院で採用しているものはこの2つになります。

過去には「オキシドール」を飲ませるやり方が主流だった時もありますが胃や食道粘膜へのダメージが大きいなど問題点も多いので当院では採用しておりません。

 

診察室内もしくは待合室で一緒に待っていただく形で嘔吐するかを確認します。

必要に応じて薬剤の追加投与をする場合もあります。

 

吐物

実際の吐物。モザイクをかけてます

 

吐けなかった時はどうするか?

誤食したものの種類や動物の性格(興奮しやすいタイプは吐きにくい傾向にあります)などでどうしても吐けないことがあります。

 

その場合は、経過を観察する猶予がありそうならば数日慎重に観察し異常があればすぐ来院いただき再対応することになります。

 

逆に経過を観察している場合ではない状況では内視鏡(※)もしくは試験開腹となります。

※:当院では2021.6現在残念ながら内視鏡はありません

吐いた後の対応

動物が脱水している、もしくは近々脱水する恐れがある場合は水分点滴をします。

入院して静脈点滴もしくは外来で皮下点滴という選択になりますが後者が大半です。

 

また、中毒物質が体に残っていそうな場合はやはり点滴をします。

毒素を点滴で洗い流すイメージですね。

 

催吐処置をした後はまだ気持ち悪さが残っていますので、セレニアというよく効く制吐剤を使用します。

 

後日の経過観察が必要であれば再度来院いただくこともありますし、しっかり吐けて元気も問題ない場合はそのまま治療終了となります。

まとめ

誤食した際は全て吐かせにいく訳ではなく、まず状況を確認して吐かせるか吐かせないかを判断します。

 

吐かせる選択をした際は薬剤を投与して副作用でもって吐かせます。

 

幸運にもきっちり吐けた場合は制吐剤を打って終了しますが吐けない場合は試験開腹に発展する可能性があります。

 

 

誤食の危険性自体はすでに広く知れ渡ってはいますが、残念ながら無くなることはありません。

動物たちは時としてわれわれ人側の想像をはるかに超えた行動を取るからです。

しかしだからといって諦めるのではなく、誤食癖がある動物はご家族全員が注意してあげてください。

事故をなるべく防ぐ努力をすることはとても大事です。

 

それでも誤食してしまったら速やかに動物病院にお問い合わせもしくは受診ください。

確実な誤食は基本は家で経過観察してはいけませんので注意してくださいね。

 

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