院長の木村です。
本記事では『犬の慢性腎臓病』について取り上げてみます。
猫の慢性腎臓病は発症率の高さからも有名で、調べたら色々な専門知識や闘病ブログを始め多くの情報が出てくると思います。
対して犬の慢性腎臓病は猫と比べるとマイナーな病気ですので、理解が深めにくい部分があります。
ですので慢性腎臓病の犬はどういった治療があるか、どう世話をしたらいいか、どういうご飯をあげたらいいかなど実践的な内容をまとめます。
大切なわんちゃんの生活に役立つ情報が盛り込まれていますのでぜひ最後まで読んでください。
犬の腎臓病とは?
腎臓病とは結石や腎炎など様々な理由で腎機能が低下した状態です。
腎臓病は「急性腎障害」と「慢性腎臓病」に分けられます。
また、急性腎不全であっても回復後に慢性腎不全に移行する場合があります。
慢性腎臓病
急性腎障害が急激に進行するのに対して、症状の悪化と回復を繰り返しながらゆっくり進行する病態です。
慢性腎臓病では、定期的な通院による検査と状態に合わせた治療方針の修正が必要です。
場合によってはそこに点滴通院も追加されることがあります。
慢性腎臓病は残念ながら治りません。
よってその治療は「進行を遅らせる」、「QOLを維持する」ことが目的となります。
慢性腎臓病の症状と治療、予後
症状
まずは慢性腎臓病の症状についてまとめて見ていきましょう。
多飲多尿
腎臓機能が低下すると尿を濃縮することが出来なくなり、多尿→脱水→多飲の順に症状が起き始めます。
一般的には体重1kgに対して1日当たり100ml以上の飲水がある場合は『多飲』と診断されます。
※5kgの犬であれば、5×100ml=500ml/日以上の飲水
尿の色を確認すると、透明に近い黄色になっていることが分かるはずです。
食欲低下、嘔吐
元気さ・活発さに先行して食欲が低下していきます。
オーナー様からすると「いつも通り元気だから食欲が落ちたのかワガママなのか分からない」という印象になります。
病気が進行するにつれ食欲低下とともに嘔吐回数・頻度が強くなっていく場合もあります。
フラフラする・動かなくなる
腎臓病は2つの理由によってフラつきが出てきます。
1つは脱水から来る低血圧によるフラつきです。
これは適切な点滴によって改善が見られます。
もう1つは筋力低下によるフラつきです。
腰回りや太ももの筋肉が痩せ骨張っているならば筋力低下の可能性があります。
もしかすると、両足を広げて背中を丸くして中腰のような姿勢を取ることが多くなっているかもしれません。
横倒し、意識が朦朧とする、ピクつきや痙攣
腎臓病の最終ステージではこのような症状が出てきます。
これらは腎臓が本来排出するはずである毒素が体内に溜まり続けた結果起きます。
慢性腎臓病でこれら症状が出ている場合は、残念ながら先は長くありません。
治療
次に慢性腎臓病の治療についてまとめていきます。
腎臓病用の療法食に切り替える
シニアフードを使っている場合が多いでしょうが、腎臓病用の療法食に切り替えることをお勧めします。
ネットややペットショップ、ホームセンターなどで『腎臓病用』などと銘打ったフードは存在しますが、獣医としてはその効果について保証はできません。
しっかりかかりつけ医と相談して療法食を決定していきましょう。
内服薬やサプリの投与
腎臓病に対しての内服薬やサプリがいくつかあります。
薬に関しては全ての腎臓病の犬に対して適切ではないこともあります。
最近はサプリも良いものが多く出てきていますので積極的に活用したいところです。
また、直接腎臓には影響しませんが一時的に食欲増進剤を使用することもあります。
皮下/静脈点滴
腎臓病と効くと点滴を思い浮かべる方が多いとは思いますが、実は優先順位は意外と低いです。
腎臓病と診断された後は、各種治療によって一旦犬の状態を引き上げます。
そこから療法食その他の治療によっても良い状態を維持できない場合に初めて点滴通院を検討します。
慢性腎臓病が急激に悪化(急性増悪と言います)が起きた場合は入院での静脈点滴も考慮します。
貧血対策
慢性腎臓病の犬では腎性貧血を起こすことがあります。
その際は、鉄剤の補給や造血ホルモン注射を検討します。
予後
最後に予後です。
「慢性腎臓病と診断された犬が後どれくらい生きられるか」は非常に気になるところだと思います。
実際には慢性腎臓病の原因、併発疾患の有無、通院環境などにより大きく予後が異なります。
ですのでお答えしたくても「あと◯◯年くらい」とお伝えするのはとても難しいです。
良好に維持できた場合は2-3年持つ場合もありますが、経験上でいうと数ヶ月〜半年くらいがボリュームゾーンです。
腎臓病の犬の世話
腎臓病にかかっている犬の世話はどうしたらいいでしょうか?
これから実践的な知識をまとめて解説していきます。
ドッグフード・食べ物
基本的には腎臓病用の療法食を使用します。
しかし、体に良いからといっても全く食べなければ意味がありませんので次点でシニア系フードを選択します。
普段から野菜をトッピングしている方は、嘔吐が増えない限りは与えても大丈夫です。
また、米やさつまいもなど炭水化物が豊富でタンパク質が低い食べ物は腎臓病用の補助食品として向いています。
ササミや魚などの肉類は与えない、もしくは総量の5%程度に止める方が無難です。
これらはあくまで一般的な考え方ですので、他に持病がある場合はかかりつけ医に与えても大丈夫かを相談しましょう。
飲水や食事介護
自分で十分に飲水や食事が出来ない場合は介護が必要になります。
食欲があるけど姿勢維持ができない場合は、支えながら水や食事を与えましょう。
食欲そのものが低下した場合は流動食を選択しシリンジポンプで強制給餌することもあります。
運動
運動そのものは禁止する必要はありません。
しかし仮に高負荷の運動を課したとしても落ちた筋肉が戻ることはほとんどありません。
高負荷・高強度の運動は逆に大事にしたい筋肉を減らす可能性がありますので避けるべきでしょう。
ゆっくり長めの散歩で、嫌がり始めたら速やかに帰宅する。
このような低負荷の運動がお勧めです。
滑らせないような工夫
慢性腎臓病の犬は筋力が低下するため、とても体勢を崩しやすくなります。
滑って腰痛を起こすとかなり状態が悪くなる上、犬にとってもちゃんと自分の思い通りに動けないイライラが募ります。
滑らせないような対策としては以下の通りです。
- 絨毯や滑り防止マットを家中に敷く
- 足裏の毛を定期的にカットする
- 肉球を保湿する
また、それでもコケてしまった時用になるべくぶつかると危ないものは低い場所に置かないようにしましょう。
大きな物音を立てない
慢性腎臓病が進行してくると、尿毒症によって神経過敏が起きる場合があります。
大きい物音や甲高い物音に急にビクッとしたら要注意です。
過敏が重度になると物音に反応して痙攣が起きることさえあります。
ですので、なるべく大きな物音を立てないように注意して生活しましょう。
最後に
以上いかがだったでしょうか。
犬の慢性腎臓病は猫と比べると調べるのが難しいので、獣医師目線で解説しました。
最初に述べたように慢性腎臓病は残念ながら治りません。
しかし適切に治療をすることによって、予後をご機嫌に楽しく過ごせることは十分に可能です。
「どうせ治らないから」と治療をしないという選択肢もありでしょう。
でも、大切なわんちゃんとの大事な時間を過ごせるのであれば治療をする価値はあると思います。
あなたの考えはいかがですか?