院長の木村です。
飼い主のみなさまは、やはりステロイドの副作用についてのご心配が大きいようですね。
当院ブログのステロイドの記事にも「ステロイド 動物 副作用」などと言ったワードでたどり着いている方が多いです。
そこで診察科目ごとに記事を分けてもう少し細かい解説をしたいと思います。
前回記事をご覧になっていない方は、まずそちらをご一読ください。
前回記事はコチラ
【獣医師監修】ステロイドの使い方と付き合い方を分かりやすく解説
ステロイドの種類
ステロイドは、剤型で分けると大きく3つあります。
- 飲み薬(内服薬)
- 塗り薬(外用薬)
- 点耳薬(外用薬)
それぞれ解説していきます。
1.飲み薬(内服薬)
皮膚科で使う飲み薬のステロイドは1択で「プレドニゾロン」になります。
病院によっては、効能がほぼ一緒の「プレドニゾン」を使う場合があるかもしれません。
商品名(薬の銀紙シートに載っている名前)としてはそのまんま【プレドニゾロン錠「(メーカー名)」】が多く、あとは【プレドニン錠】もよく使われます。
当院では薬の量が多い大型犬用の海外薬と、錠剤が飲めない子用に粉薬を用意しています。
2.塗り薬(外用薬)
塗り薬は飲み薬と比べてかなり種類が多くなります。
人用医薬品の名前を挙げるのは困難ですが、動物用医薬品では代表的なものが以下になります。
- ビクタスS MTクリーム
- ゲルネFローション
- ヒビクス軟膏
- アレリーフローション
- コルタバンス
動物用医薬品の多くの製品では、合剤(ステロイド以外に抗生物質と抗真菌薬が混ざっている薬)です。
しかし、アレリーフローションとコルタバンスに関してはステロイド単剤なので皮膚炎だけを止めに行きたい場合は非常に使いやすい薬です。
これらは痒みの症状が皮膚炎由来なのかそれともバイ菌なのかカビなのか、そういった原因を特定した上で使い分けることになります。
3.点耳薬(外用薬)
点耳薬も塗り薬同様にかなりの種類があります。代表的なステロイド系点耳薬は以下の通りです。
- ウェルメイトL3
- オトマックス
- モメタオティック
- イズオティック
- オスルニア
最近の製品のトレンドとしては、「アンテドラッグ」、「長期作用」、「Very strong」といったキーワードでしょうか。
ガツンと長期に効いて、でも安全。みたいな感じですね。
もちろん1日1回の点耳薬が時代遅れかというとそうではなく、むしろまだ主流です。
ステロイドの強さ
塗り薬に含まれるステロイドの種類によっては、すっごい効くやつからちょっとだけ効くものまで効能が様々あります。
こう書くと、とりあえず全部すっごい効けばいいじゃないの?と思われるでしょう。
しかし、不必要に強力なステロイドを使うと各種副作用(全身吸収やステロイド皮膚症)に悩まされる可能性がありますので、一概に強ければ良いというものではありません。
ステロイド皮膚症は人によっては閲覧注意ですので、見てみたい方はご自身で検索をお願いします。
ステロイドは、その強さに応じてグループに分けられています。
下図はシオノギヘルスケア様サイトからの抜粋です。(リンクはこちら)
動物用外用薬としてはストロンゲストの製品は無く、ベリーストロングが実質最強です。
使用する症状(例)は人での話にはなりますが、強さでステロイド系外用薬を使い分ける必要があることはご理解いただけるかと思います。
一方飲み薬はというと、「プレドニゾロンほぼ一択」とお伝えした通りです。
ちなみに怖いイメージのあるそのプレドニゾロンは、上記の表でいうと一番弱いウィークです(意外ですよね)。
これは外用する場合と内服する場合の体への吸収率の違いに起因します。
もし仮にベリーストロング級のステロイドを内服したら肝数値が爆発するでしょうね。
ステロイドの副作用
塗り薬・点耳薬の副作用
まず先にも出ました「ステロイド皮膚症」です。
これは過剰なステロイド塗布により皮膚が萎縮し赤みや痒みを起こし、最悪皮膚が裂けたりする症状です。
これを知っていないと、赤くて痒いからとそこにまた原因であるステロイドを一生懸命塗って悪化させて、という負の連鎖が起きます。
他院で処方された塗り薬をずっと塗っているんだけど湿疹が治らないといって来院された患者動物で割と見かける症状です。
飲み薬の副作用
前記事でも上げましたが、以下の通りです。
- 多飲多尿
- 嘔吐下痢
- 肝数値の上昇
- 糖尿病
- 筋肉の消耗
他には、心臓病がかなりシビアな子にはステロイドの血圧上昇作用が心臓に負荷を与えることもあります。
食欲増進作用は副作用か副効用か判断が分かれるところですね。
びっくりするくらい食欲モリモリになる子がいます。
※元々遊び食いだったのに、投薬中は食べた端からおかわりを催促するなど
食欲増進を期待して敢えて使うことがあるくらいですからね。
一過性の副作用であれば程度にもよりますが数日から1ヶ月程度で消失します。
肝数値上昇が見られた際は1ヶ月後などに再度検査すると安心でしょう。
ただし、糖尿病が本格発症した場合は残念ながら投薬を中止した後でも糖尿病治療を継続する必要があります。
膵炎などインスリン抵抗性が高まる病気を併発して血糖値が上昇した場合では回復後は速やかに改善することが多いです。
各種ステロイドをどう使い分けるのか
人では、今はもうアレルギー性皮膚炎などでは保湿とシャンプーと外用ステロイド(あと外用免疫抑制剤)でギリギリまで粘りますよね。
それらではどうしようもない場合にだけ飲み薬のステロイドが登場します。(よっぽど無いですが)
しかし、動物たちの世界では事情が異なります。
副作用のことを考えると人同様に保湿とシャンプーと塗り薬だけでなんとかしたいのは山々です。
しかし、例えば塗り薬を塗布すると皮膚のべたべた感で余計掻くようになる子がいます。
塗り薬がしみた経験があった場合は、外用薬そのものを嫌がる子もいます。
また、人と違い動物たちは体毛が密生してかなり塗り薬が使いにくいので、色んなところに同時多発で起きている湿疹を塗り薬だけで管理するのは厳しいです。
そういった際は止むを得ず内服を必要分使用します。
あとステロイドを内服すると副作用が出ることが分かっている子には極力塗り薬で管理を試みます。
少し趣旨からはズレるかもしれませんが、ステロイド薬の副作用に強い拒否感や心理的抵抗をお持ちの飼い主様では塗り薬を主体として治療を組み立てます。
アレルギー性皮膚炎などでは多くの子が外耳炎を併発しているので、そちらに対して処方した点耳薬をそのまま皮膚の塗り薬として転用いただくことも多くあります。
ただしこれは効能外使用となりますのでその使用の判断は病院毎・獣医師毎に異なる場合があります。
さて、前述した通りステロイドには強さによる分類があります。
強さが違うステロイドの使い分け方は、正直言って症状を見ながら適切にとしか言いようがないのですが、基本は症状が重い部位にほど強いものを使います。
特に新しい薬であるアレリーフローションはかなり使い勝手が良く、頑固な皮膚肥厚や苔癬化などの重度かつ慢性の症状にもよく効いてくれます。
それ以外では軟膏・ローション・クリームという「固さ」による使い分けもしております。
これらは症状の出方や皮膚への刺激性・患者動物の性格などにより決定します。
使用期間について
塗り薬・点耳薬
基本は皮膚のターンオーバーを意識して4週間で考えます。
そこをベースにして、かなり軽症だから1週間で十分炎症を鎮火できるかな、とか再診の皮膚チェックでまだ症状が残っているからもう数週間追加しようかな等と調整していきます。
強いステロイドを使用する場合はステロイド皮膚症を警戒して1−2週間で再診に来ていただくことが多いです。
ステロイド皮膚症に注意してくださいねってお伝えしても、見たところで家では分からないですからね。
持続性の皮膚炎であることが明らかである場合は、痒みもなく調子が良い状態でも週1-2回の塗布を継続する場合があります。
これをプロアクティブ療法といいます。
飲み薬
一時的な止痒ですぐ症状が治まりそうな場合は数日〜1週間程度で使用します。
問題は皮膚がボロボロになっていたり夏の間ずっと続くような重症・慢性皮膚炎です。
これもやはりターンオーバーに従い4週間で考えていきますが、その間はずっと基本の1日1回内服にするか途中から内服回数を減らすかを考えます。
一般的には1-2週間毎に症状の改善や副作用の有無を確認しながら半分→また半分といった形で減らしていきます。
ただし現時点の獣医皮膚科では、皮膚症状での内服ステロイドの減らし方に統一された見解はありませんので、経過は各獣医師で異なります。
使用する量・方法について
塗り薬
基本的にベタ塗りはしません。
しっかり患部全域に伸ばせる最低限量というイメージですね。
薬剤がちゃんと伸びているかは皮膚のしっとり感やつるつる感で判断します。
体毛が密生しているところには毛をしっかりかき分け地肌に直接塗布してください。
どれだけ使おうが毛に付いてるだけでは何の効果もありませんからね。
点耳薬
小型犬では通常、片耳につき1日1回1滴使用になります。
イズティックを始めとした特殊なボトル形状をしている点耳薬の場合は、添付文書の指示通りの量で使用します。
点耳薬を処方する際に一番お聞きする心配事は、「家で病院みたいに奥に点耳なんて怖くてできない」ということです。
大丈夫です。
耳の奥にボトル先を突っ込んでブチュっとする必要はありません。
むしろボトルへの雑菌汚染を避けるために、耳の皮膚になるべくボトル先を付けないでください。
少し耳と顔を斜めにした(耳の穴が上を向いている)状態で、穴を狙って大体の感覚で1滴落とします。
そして首尾よく耳の穴辺りに落ちたら耳の根本のこりこりした筒状の軟骨を数秒優しく揉んで薬を馴染ませます。
やっていただきたいのは本当にこれだけです。
ちなみに耳たぶに落ちてしまった場合は穴目掛けてもう1滴チャレンジしてください。
中・大型犬では耳が大きいので1回2−3滴を使用します。
やり方は変わらずに量だけが変わります。
ちなみに私個人のやり方にはなりますが、耳たぶ自体が赤く炎症しているような場合は点耳+もう1滴耳たぶへの塗布をお願いすることが多いです。
飲み薬
内服のステロイドの使い方ほど厄介で難しいものもありません。
通常使用するプレドニゾロン錠は大抵5mgという薬剤量です。
※銀紙シートに5mgとか書かれていたら確定ですね。
これを体重(kg)で割算して体重1kg当たりの投与量を算出することから始まります。
例)5kgの動物に5mg錠を1錠投与したら、5mg÷5kg=1mg/kg
動物は体重差が極めて大きいので、獣医はこういった計算を必ずします。
皮膚でステロイドを内服する場合は0.5-1.0mg/kgで開始することがほとんどです。
これを抗炎症量といいます。
仮に0.5mg/kgを下回ったら効果が無いかというとそういう訳でもなく、軽微な症状であれば0.4mg/kgとかでも落ち着きます。
下回るほど痒みや炎症をコントロールできない子が増えていくというイメージで考えていただけたら大丈夫です。
逆に1mg/kgを上回る場合は免疫抑制量といい、通常の皮膚炎では用いません。
(免疫抑制量を使う場合は、例えば天疱瘡やエリテマトーデスといった特殊な免疫病からくる皮膚症状です。)
強く使えば使うほどに皮膚は落ち着きますがその反面、副作用の出る確率が上がるというジレンマがあります。
ですので、先の開始量で1−2週間様子見しつつ次はその半分、次は更に半分などと1−2週間毎に減量していきます。
ただ、錠剤を分割するのには物理的な限界があることと、プレドニゾロン自体が1回の投薬で1日半作用することから途中からは量ではなく回数を半分にします。
つまり毎日1回投与だったら、それを2日に1回投与にするわけですね。
最終的には2日に1回もしくは週2回程度にまで頻度を落としても症状が再燃しなければ休薬します。
休薬し切れずにどうしてもステロイド内服を続けざるを得ない場合は、なるべく1日おき0.25mg/kg以下の投与量まで落とします。
このレベルまで量・頻度を削れたら長期使用による副作用はほぼ心配いりません。
最後に大事な注意事項
おそらく今まで出てきた製品名を検索すると個人輸入サイトから買えるものもあるでしょう。
しかし、ステロイド系の製品というものは使い方を誤ると重大な副作用が生じることがあります。
前述のステロイド皮膚症しかり、他にも例えば感染系疾患にステロイドだけを使うと症状を著しく悪化させることさえあります。
当たり前の話ですが、全て医薬品である以上、どの製品をどの期間どの量で使用するかは検査と獣医師による判断・指示が必要になります。
例えば、いつもかかりつけの病院に受診して皮膚を見てもらったら同じお薬が出てくるからネットで買っちゃえーとやったとします。
でも本当にその症状は前回と同じと言い切れますか?また症状の程度は外用薬単独で落ち着くものでしょうか?どれくらい外用すればいいのでしょうか?
自己判断でなんとなくいつも通りに使った場合、その判断が誤っていた場合は取り返しのつかないダメージを皮膚や全身に与える恐れがあります。
じゃあそれを治してくれるのは誰でしょうか?
厳しい言い方ですが、少なくとも私は「外用薬を含め薬全般を自己判断で購入して使っていることが分かった時点」で、その子の皮膚に関して診ることは全く有り得ません。
動物病院からしたら何が起きても責任取れないですし、そもそもそんな危なっかしい(コンプライアンスの無い)飼い主様とは治療する上で信頼関係をまともに築けませんからね。
もし、それでも個人輸入サイトのほうが安いからと買われる場合は信頼できるかかりつけ医を失う覚悟でやりましょう。
ステロイドの副作用に関する対策法はこちらの記事もお読み下さい。
【獣医師監修】ステロイドの副作用を防ぐ!対策まとめ