院長の木村です。
皆さん、わんちゃんがびっこを引いていたら骨や関節の病気ばかり考えていませんか?
その子が未去勢であれば、びっこの症状は前立腺炎から来ている可能性があります。
本記事では未去勢の犬に多い、前立腺炎の症状とその治療法について解説します。
特に未去勢で高齢のわんちゃんを飼っている方は必見ですよ。
結論
- 前立腺炎では、血尿などの他にびっこ症状が起きる
- 動物病院では直腸検査や血液検査などで診断する
- 未去勢で高齢の場合は、前立腺炎に十分な注意が必要
前立腺炎とは
前立腺炎とは読んで字のごとく、前立腺が炎症することです。
前立腺が炎症を起こす理由としては、「細菌感染」と「癌」があります。
ちなみに前立腺ってなに?
精液の一部である前立腺液を分泌する組織です。
※前立腺液は主に交配のために必要な精液の成分です
人同様に犬も、歳を取るにつれて徐々に前立腺肥大を起こしていきます。
前立腺炎の症状
前立腺炎の症状は主に「血尿」や「尿しぶり」など膀胱炎と似たようなものです。
前立腺は膀胱とニコイチのような臓器ですので、前立腺炎と膀胱炎とが同じ症状を示すのも感覚的に理解しやすいのではないでしょうか。
しかし、実は前立腺は膀胱炎には無い「びっこを引く(後肢跛行)」という特殊な症状があります。
なぜ前立腺炎では、びっこ症状が出るのか
前立腺はちょうど骨盤近くにある臓器です。
そして後肢を動かす際には、骨盤上の股関節を中心にその付近の組織(筋肉、皮膚、腹膜、尿道など)が同時に動きます。
つまり後肢を動かす時に、前立腺が他の組織に引っ張られることで刺激されるというわけです。
炎症というのは必ずそこに発痛物質の生成を伴います。
よって炎症部位が刺激されたことで痛みが走る→びっこを引くという症状に繋がります。
びっこ症状とは
びっこ症状とは、以下のような症状を指します。参考にどうぞ。
- 片足を挙げたり地に付きにくそう
- 片足に十分な体重をかけられない
- 十分な足の曲げ伸ばしができないまま歩く
前立腺炎を疑ったら他の症状も確認
前立腺炎は以下のような症状も存在します。
- 血尿:ピンク色、通常の尿に一部血が混じる場合もある
- 膿尿:更に悪化した場合は、膿のような尿成分が混じる
- 有痛性排尿:排尿するまでに時間がかかる、排尿時に鳴く
- 排便困難:排便姿勢を取りづらいために便秘になる
当てはまる項目が多いほど前立腺炎を強く疑います。
速やかに動物病院を受診してください。
しかしびっこ症状が無くても前立腺炎が起きている可能性もあります。
びっこが無くて上記症状がある場合も様子見すべきではないでしょう。
病院での診断の仕方
動物病院では、主に以下のような検査によって前立腺炎を診断します。
- 直腸検査:前立腺腫大や痛みの有無
- 尿検査:菌感染の有無
- レントゲンやエコー検査:前立腺や膀胱などの異常所見
- 血液検査:白血球やCRPの炎症数値以外に、腎数値なども
- 体温測定:前立腺炎が起きると発熱することも多い
それ以外にもケースバイケースで追加検査が実施されることもあります。
ここに未去勢、高齢という条件が揃うとかなりの確率で前立腺炎と判断できます。
前立腺炎の治療
前立腺炎はまず、抗生剤による治療を行います。
前立腺炎は非常に回復が悪くて再発しやすいため、抗生剤を1ヶ月以上使うことが多くあります。
前立腺は抗生剤が届きにくい組織ですので、当院ではその中でもまだ届きやすい「オーグメンチン」や「ニューキノロン系」の抗生剤を使用しています。
また痛みや発熱によるQOL低下が見られる場合は、同時に消炎鎮痛剤を使用することもあります。
そして一旦症状が落ち着いたところで、去勢をして前立腺を縮小させ再発をなるべく防ぎに行くのが王道です。
前立腺癌に伴う炎症の場合
稀に前立腺炎が前立腺癌に伴う炎症である場合があります。
その際は、別に細菌感染をしている訳ではない(勿論併発していることもありますが…)ので抗生剤の投与は必要ありません。
癌というくらいですから、治療は抗癌剤を含めた化学療法や外科切除が選択肢になります。
最後に
いかがだったでしょうか。
びっこ症状で前立腺炎の話をする時には、「そんな症状出るの?!」と結構びっくりされます。
もし前立腺炎に気づかずに様子見や鎮痛治療だけしていては、いつまで経っても治らず前立腺炎が慢性化してしまいます。
逆に「びっこ症状で前立腺炎の可能性がある」と知っておけばスムーズな病院受診と治療に繋がります。
特に未去勢高齢のわんちゃんのオーナー様はぜひ覚えておいてくださいね。