院長の木村です。

本記事は去勢避妊手術についてのお話です。

 

去勢避妊手術(=不妊手術)をしたほうがいいのか

答えはYesです。

 

当院では下記に関しては速やかに去勢避妊することを強くおすすめします。

  1. 将来交配を希望しない場合
  2. タイミングを見計らっているがマーキングやスプレーなどをし始めた
  3. メス猫で発情由来の鳴き方をしている
  4. 交配を希望していたが6歳を過ぎてしまった
  5. ブリーダーや知人から去勢避妊手術は要らないと言われた
  6. シニア期(7歳以上)に入っていて麻酔の負担が心配
  7. 家族が麻酔あるいは不妊手術に対してネガティブな印象をお持ちである
  8. 短頭種であって麻酔リスクが高いという説明を受けた、あるいは見聞きした
  9. 不妊をすることが生き物としての尊厳を失わせる行為であると考えている
  10. 不妊をするかどうかについてあまり深く考えたことがない
  11. メス犬、またはメス猫で子宮水腫あるいは子宮内膜炎の疑いがあると指摘された
  12. オス犬、またはオス猫で睾丸が大きいもしくは硬くなった(往々にして片方だけ)印象がある
  13. オス犬、またはオス猫で片玉しか無い

 

いっぱい書いてしまいましたが、すごく簡単に言うと交配を希望していない場合は不妊手術を検討しましょうということです。

これらのケースに対する獣医師としての回答はこちらになりますので、ぜひお読みください。

【獣医師監修】不妊手術をしない・悩む理由Q&A

不妊手術を推奨するのは病気予防本人と他のご家族のQOLを維持するという観点からです。

 

不妊手術のタイミング

ベストは生後6ヶ月齢前後です。

そしてできれば初回発情やマーキング、マウンティング、スプレー行動などが始まる前が理想です。

 

例外として、体の成長がかなり遅く臓器の発達がまだ未熟と思われる動物では1−2ヶ月待つことがあります。

 

時期としては、夏場は避けていただくことが多いです。

 

短頭種に代表されるような暑さに弱い犬種あるいは肥満の子は、術後の体調管理という意味で涼しい時期での手術をおすすめします。

 

しばらくは術後服(病院によってはエリザベスカラー)も身に着けますしね。

 

とはいえ、ご家族の事情や何かしら待てない理由があれば手術は可能です。

発情(ヒート、生理)中の場合は手術出来ない??

やろうと思えば可能ですし、実際にリスクに対してご理解とご了承を得た動物では実施しています。

 

発情中の体は全体的に出血しやすい傾向にあります。

 

例えば皮膚を切開した時に、発情がなければ自力で止められる小出血でもじわじわ出続けたりします。

 

子宮や卵巣周りの血管も太くなり、より慎重な結紮や止血操作が求められます。

 

その結果、止血操作に時間がかかるので通常時より多少(トラブルがなければ10分程度)手術時間が延長します。

 

また、術後は時間を置いて術部のチェックを2-3回するのですがやはり通常時より出血痕は大きめの印象があります。

発情していたらどうしたらいいの?

先のような回避できる手術リスクを回避したい場合は待つことになります。

 

発情が終わってもホルモンバランスが落ち着くのに時間がかかりますのでわんちゃんでは発情終了後2−3ヶ月が目安です。

 

ねこちゃんの場合は時期の判断が難しいです。

 

繁殖期(春〜夏)では発情期がかなり早いサイクルで回ってくるのでわんちゃんのようにはできません。

 

冬の時期を狙うか、出血リスクは上がるもののそのまま手術を迎えるかになります。

 

特にねこちゃんの発情期の鳴き声(さかりの声)がかなり強い子も多く、ご家族が眠れない、または近所トラブルの元になるということがあります。

 

現実的には、結局待てなくてそのまま手術をすることがほとんどですね。

 

当院の猫避妊手術の術式が卵巣摘出であり、切開や操作(=出血機会)が最小限であることも要因です。

不妊手術の術式

犬(男の子)

ペニス根本1ヶ所の切開にて両精巣を摘出します。

皮膚は非吸収糸(勝手に溶けない糸)なので術後10-14日で抜糸します。

 

片玉さん、つまり隠睾の症例では切開が2ヶ所になることもあります。

猫(男の子)

睾丸2ヶ所の切開にて両精巣を摘出します。

 

外側から見えない結紮は吸収糸、切開は縫合しませんので原則抜糸はありません。

※皮膚縫合無しは乱暴な術式に聞こえてしまいますが、猫ちゃんの場合は大丈夫です

 

犬より圧倒的に数は少ないですが、稀にいる片玉さんはやはり2ヶ所切開です。

犬(女の子)

お腹の真ん中〜下腹にかけて1ヶ所を切開(男の子より長め)して卵巣と子宮を摘出します。

 

皮膚は非吸収糸(勝手に溶けない糸)なので術後10-14日で抜糸します。

猫(女の子)

お腹の真ん中1ヶ所を最小限切開してして卵巣のみを摘出します。

 

皮膚は非吸収糸(勝手に溶けない糸)なので術後10-14日で抜糸します。

 

野良猫や地域猫で次回捕まえられない場合は、吸収糸で埋没縫合をしますので抜糸はありません。

※通常の縫合法よりも術部裂開への耐性が落ちるので家猫さんにはおすすめしません

手術前からの流れ

当院での手術のおおまかな流れとしては以下になります。

①通常外来での術前検査

血液検査と胸部レントゲン検査は必ず実施します。

 

7−10歳ではそこに腹部エコー検査が、10歳以上では更に追加血液検査や甲状腺ホルモン検査が追加されます。

 

これはシニア期では無症状だけど隠れているかもしれない病気を除外するためです。

 

もちろん、7歳未満でもご希望や持病があれば腹部エコー検査等の追加検査を実施することがあります。

 

また、健康診断を直前にしていて十分な検査データであると判断したら、そのデータで手術に向かいます。

 

これらの術前検査のデータは原則1ヶ月を期限とし、それ以降での手術であれば再検査をします。

 

例えば「1週間後に手術を予定していたけど、事情により2ヶ月後に変更した」といったケースです。

 

じゃあ1ヶ月と1日目じゃダメかっていうとそこまで杓子定規にはしませんのでご安心ください。

そこは改めて相談させていただきます。

 

②日取りや段取りの相談

術前検査の結果はその場で出ますので、待合にてお待ちいただき、結果に問題が無ければ日取りを設定します。

※外注の健診セットをご利用の場合は、結果が出ていませんが先に仮予約で日取りを押さえます

 

当院が推奨する曜日は月、火、金、土曜日です。

 

水曜日も手術は可能ですが、術後にもし調子が悪かった場合でも病院が休診していますのであまりおすすめしません。

 

手術は原則、当日9時〜11時30分までに来ていただいて動物さんを預かり、夕方5〜6時にお迎えになります。

ですので、都合2回来院できる日取りを事前にご家庭でご相談ください。

 

日取りが決まったら手術時の注意事項をご説明します。

③ノミ予防、ワクチン

不妊手術の半日預かりとはいえ、他の動物さんと同空間にいる場合もありますので必ず事前にノミ予防をしていただきます。

※直接触れ合うことはありません

 

ノミを移すかも知れないし移されるかもしれないし、ということでお互い様の対応ですね。

 

ワクチンに関しては必須ではありませんが、できる限り事前に1回でも接種することをおすすめします。

 

これもやはり同様の理由で、病院という性質上どういった患者さんがいるか事前に分からないですからね。

自己防衛という意味合いが強いです。

もちろん、感染症を疑う患者が入院している場合は最大限の感染対策はさせていただきます。

④手術日に絶食絶水して来院

手術は前日夜11時以降から絶食、当日朝9時以降から更に絶水も加えて来院いただきます。

これは麻酔時の誤嚥を避けるためですので、必要な処置になります。

 

がっつり食べてしまったら手術が延期になってしまいますので十分ご注意ください。

 

もし腎臓病等で絶水がし辛いなどありましたら個別に対応の仕方をお伝えします。

 

これらは犬猫・オスメス問わずみんな一緒です。

 

特に多頭飼育の状況ですと絶食がし辛いというお声はいただきますが、隔離管理が出来なければどうしようもありません。

 

みんなして当日朝まで我慢していただきます。

※手術する子が家を出た後に他の子のご飯を与えてください。

※どうしても管理が難しければ前日からのお預かりも可能です。

 

体調等大きな問題が無ければお預かりします。

⑤昼に手術

だいたい昼1時前くらいから始めることが多いですが、午前診察の混み具合で開始時間は変わります。

 

術前に先制の鎮痛注射をし、十分効いた状況で手術を開始します。

 

不妊手術だけでしたら基本的に1時間以内で覚醒まで持っていきます。

特に猫の去勢手術は早く、おおよその手術時間は20分程度になります。

⑥夕方お迎え

夕方5〜6時頃にお迎えに来ていただきます。

そこで当日夜や翌日での注意事項や投薬に関して等の説明を致します。

 

家に帰ったらだいたいの子は疲れて眠っていることが多いですのでそっとしてあげてください。

 

帰ってからの様子はよく観察いただき、もし震えて痛そう、食欲が無いなどの体調変化がありましたら翌日に再度ご来院ください。

 

絶食後で更に麻酔をかけたということで嘔吐しやすいので当日夜の飲水やご飯は控えめに与えていただきます。

⑦術後〜抜糸まで

術後は原則2−4日目に一度傷口のチェック・消毒に来ていただきます。

 

そこから必要に応じてもう一度来院いただき、同様の処置をします。

 

十分皮膚同士がくっつくまで時間を待ってから抜糸になります。

 

抜糸は若くて基礎疾患が無ければ術後10日目以降、シニア以上や基礎疾患があれば14日目以降となります。

 

手術直後は運動制限、以降は軽運動程度(散歩はOK、全力疾走は✖)に止めていただきます。

 

また、動物は抜糸するまではエリザベスウェアと呼ばれる術後服を着て生活してもらいます。

⑧抜糸後〜

抜糸したら運動制限は完全に解除です。

エリザベスウェアも脱いで普通の生活に戻って大丈夫です。

 

シャンプーは抜糸から丸一日待てば、それ以降でいつして頂いても構いません。

 

最後に

いかがだったでしょうか。

 

ある程度細かくは記載したつもりではありますが、あくまで全ての動物さんに共通したお話になります。

 

ご心配な点は個別の状況によって違うかと思いますので、その点はお問い合わせいただければと思います。

 

手術としては最も一般的なので軽視されがちですが、実は意外と痛いと言われる避妊去勢手術。

 

当院では術前から先取り・マルチモーダルでしっかり鎮痛をして安全な麻酔と速やかな体調の回復を目指します

 

また痛みに対しての感覚はその子その子で違います。

追加の鎮痛処置や処方も可能ですので細かくご相談いただければと思います。

 

 

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