院長の木村です。
今回の記事は「6月1日以降のマイクロチップ義務化の内容を解説!〜後編」となります。
まだの方は前編を先にお読みください。
前編では6月1日以降の法改正の内容や、飼い主側に課せられる新たな義務に関してお伝えしました。
こちらの後編では、マイクロチップそのものに関する補足説明やその他内容をまとめてご紹介していきます。
マイクロチップについて
マイクロチップ(以下MC)は、犬猫の皮膚の下に埋め込む米粒大の装置(集積回路)です。
2022年5月31日以前では装着は任意でしたが、同6月1日をもって動物販売業者側に装着義務が課せられました。
対して飼い主側の装着は努力義務となっています。
しかしながら、法改正されたことからも動物へのMC装着はトレンド化しています。
近い将来飼い主側へも義務化される可能性もありますので、今のうちにMCのメリットとデメリットを把握しておきましょう。
MCのメリット①:逸走時の保険
MCの一番大きなメリットは「動物が逸走(脱走)した時に、帰ってくる可能性が高くなること」です。
MCには個体情報と紐づけられた世界で唯一の識別番号が入っており、その番号を機関に照会することで飼い主が判明します。
つまり、散歩時に首輪が抜けて逃げていった、玄関を開けた隙に外に飛び出していってしまった等の際に手元に動物が帰ってくる確率が上がるということです。
なぜならその動物を保護した人間は、先述の照会を行えば機関を通して飼い主と連絡が取れるからです。
もちろん逸走後に交通事故等に遭い不幸にも動物が命を落としてしまったら、MCがあろうがどうにもなりません。
装着の有無に限らず動物の逸走を防ぐ努力は必要ですが、残念ながらどなたであっても100%は防ぎきれません。
「ウチは脱走なんて起きないから必要無いわ」というのは、「気をつけて生活するから火災保険は必要無い」と言っているのに感覚としては近いです。
MCのメリット②:行政データベースとの統合
今までは狂犬病ワクチンの接種証明や、そもそもの自治体への登録を行う必要がありました。
それら作業は業務委託を受けた動物病院が代行可能ですが、それでも条件によってはオーナー様が直接自治体(多くは保健衛生課)に出向く必要があります。
今後MCでの行政データベースが統合されていくと、その自治体への申請業務が要らなくなる可能性が高いです。
ただし現時点では改正法が施行されたばかりであり、各自治体も十分に対応しきれていません。
あくまで”未来の”メリットとなりますのでご注意ください。
MCのデメリット①:MRI撮影検査の障害となる可能性がある
MCを装着していると、その周囲10数cmの範囲でMRI画像が撮影できなくなります。
ほとんどの動物には首筋にMCを装着するため、その位置関係次第では例えば頸部MRI撮影が出来なくなる可能性があります。
※できなくなるというのは、撮影自体は可能ですが「画像が写らなくなる」という意味です
将来に動物が神経症状を発して頸部MRI撮影が必要となった時に、MC装着部位がピンポイントで撮影したい部位と重なった場合は診断ができなくなります。
ただし私の20頭程度のMRI撮影経験の中では、MC装着により診断が不可能だった動物はいませんでした。
MCのデメリット②:装着の違和感、アレルギー
MCは生体にとって異物であるので、装着によって違和感が出たりアレルギー反応が出る可能性は否定できません。
先述のMRI撮影にも関わりますが、日本獣医師会が配布しているガイドラインにはトラブルを避けるために目標装着部位が記載されています。
当院では一例、MC装着の違和感による掻爬行動を疑っている症例がいます。
※まだ断定できる状況ではありません
アレルギーはMCが異物である以上100%無いとは言い切れませんが、日本獣医師会によれば日本国内での報告は1件も寄せられていないとのことです。
MCのデメリット③:装着処置の痛み
MCは獣医師等が専用のインジェクターと呼ばれる装置を使い動物に装着します。
このインジェクターの先は太い針となっていて、通常の診察で使うものよりも口径が広くなっています。
その分どうしても皮膚を刺激するために、通常の注射よりやや痛みを感じやすいと言えるでしょう。
ただし処置自体は通常の注射同様に一瞬で終わりますので、個人的には極端に警戒するものでは無いと考えています。
もちろんご心配な方もいらっしゃるため、当院では麻酔をかけた際の装着もご案内しています。
1獣医師としての見解
さて、ここでMCに対する見解を1獣医師として述べさせていただきます。
まずMC装着の是非についてですが、私は装着すべきと考えています。
その理由はメリット①逸走時の保険というものが一番大きいです。
今までに、大切にしていた動物が自分の不注意や油断から逃げてしまって大きな落胆と悲しみを背負ったオーナー様と何人かお話ししたことがあります。
その中には、後日に動物が戻ってきた人も結局戻ってこなかった人もいます。
MCが装着されていれば絶対動物が帰って来る訳ではありませんが、なるべく帰ってくる確率を上げるために装着するのも1つの愛情でしょう。
もしMC装着せずに所有者不明のまま保健所に引き取られた場合、最悪の場合殺処分となる可能性もあるのですから。
デメリットも3つ挙げましたが、経験上では実際にMC装着により明らかな被害が出たことはありません。
※前出の疑いの動物は経過観察中
私は逸走時に帰ってこないリスクとMC装着に関わるリスクを比べたら、前者の方が大きいと判断しています。
すでにMC装着済みの動物についての注意事項
さて、すでにMCを装着した動物に関しての注意事項をお伝えします。
2022年5月31日以前にMCを装着した動物に関しては「AIPO」などの民間機関に情報登録がされているはずです。
しかし同6月1日以降にMC情報を登録する機関はそれらとは異なる組織(指定登録機関)となります。
※詳細は環境省HPを参照ください
要は今までと違う団体に登録をし直す必要があるということですが、現時点では法律上の義務ではありません。
ただし今後、メリット②の行政データベースとの統合によって生まれる恩恵を受けようとするならば、登録し直しが必要となります。
今後のMC情報の活用
最後に今後のMC情報がどのように活用されていく予定かを紹介します。
今後のMC情報は、行政と連携した指定登録機関のデータベースにて管理されます。
ですので新規登録や所有者変更や住所変更などが有った際は、指定登録機関にさえ届出をすればOKとなります。
要は「指定登録機関が行政の窓口として一元化される」と考えてください。
また狂犬病予防接種を行なった際も、MC番号さえ分かれば今まで必要だった届出作業や鑑札の装着が無くなります。
つまり、MCが今までの鑑札代わりとなります。
行政スリム化の必要性が騒がれている昨今ですが、動物業界にも少しずつその風が吹き込みつつありますね。
最後に
さて、いかがだったでしょうか。
後編ではMCそのものの情報と、MCを取り巻くこれからの未来について解説しました。
前編でもお伝えした通りMC自体はシステムがかなりややこしくなっています。
また関係各所も鋭意努力されていると思いますが、現時点では私が資料を確認しても理解し辛いレベルです。
ですのでオーナー様にとっては、それ以上に難しい(というより情報が整理されていない)状況にあります。
本記事を見てもいまいち理解が難しい場合は、どうぞ当院へお問い合わせください。
※申し訳ありませんが、高槻市外にお住まいの方へはご返答しかねます。各自治体にお問い合わせください。
たかつきユア動物病院(木曜・日曜・祝日休診 9:30-12:30、16:00-19:00)