院長の木村です。
本記事では現役臨床獣医師が犬の糖尿病について知っておきたい知識まとめを解説します。
いずれも飼い主の基礎知識として最低限知っておきたいものばかりですのでぜひ最後まで読んでください。
知っていると知っていないとでは糖尿病の治療や管理が大きく変わってきますよ!
猫の糖尿病に関してはこちらをご覧ください。
【獣医師監修】猫の糖尿病は治療しなくても大丈夫??
目次
- 結論
- 犬の糖尿病とは
- 糖尿病はどんな症状が出てくる?
- 糖尿病の治療方法
- ごく一部の例外
- 注意したい!低血糖の怖さ
- 糖尿病にならないためにしてあげられること
- 糖尿病の子の未来
- 終わりに
結論
- 糖尿病とは体内のインスリンが足りなくなって高血糖を起こす病気
- 治療をせずに放っておくとどんどん衰弱して最悪亡くなってしまう
- 多飲多尿・異常な食欲・痩せていくという症状に気付いたらすぐに動物病院へ
- ほとんどの子で1日2回のインスリン注射が必要だが良好にコントロールできれば機嫌良く過ごせる
- 低血糖と思われる症状が出たらすぐに病院へいったり自宅で応急処置をすること
犬の糖尿病とは
知らない方も多いのですが、実はわんちゃんも糖尿病を起こします。
細かな糖尿病の分類としては人と違いますが、まず糖尿病という病気があるということを知っていてください。
糖尿病は、体の中から分泌されるインスリンが足りなくなって高血糖を起こす病気です。
血液中に糖分がたくさんあるというのは、言い換えれば細胞内に糖分が入っていかない状態です。
血液という通路に並んだ細胞の家にはドアがついていて、そのドアを開ける役目を果たしているのがインスリンです。
インスリンが足りなくてドアが開かないと糖分(食料)を補給できず細胞はどんどん飢えていきます。
細胞が飢えると、細胞本来が持っている働きをできなくなって体内社会が機能せず崩壊していきます。
ですので、犬の糖尿病は治療しないとどんどん衰弱して亡くなります。
ごく一部、通常の糖尿病治療をせずに済むわんちゃんもいますので、記事の後半にまとめます。
糖尿病はどんな症状が出てくるの?
- 多飲多尿
- 異常な食欲(途中から食欲不振になる)
- 食べているのに痩せていく
- 元気消失
人では血管炎による末端壊死、猫では蹠行(ショコウ)と呼ばれる変な歩き方が問題になることがありますが、犬ではほぼ出ません。
1.多飲多尿
糖尿病に気づくために最も重要な症状です。
高血糖になっていること自体が体にダメージを与えますので、体は何とか血糖値を元に戻そうとします。
濃くなった血糖値を正常に戻すにはどうしたらいいか?
オシッコをじゃんじゃん出して糖分を洗い流す訳ですね。
そして出した分喉が渇くのでいっぱい水分を取り、結果として多飲多尿が見られます。
2.異常な食欲(途中から食欲不振になる)
糖尿病によってインスリンが不足してしまうと細胞が飢餓状態(栄養不足)になります。
これはまずいということで、食欲中枢が刺激されて異常なほどに食欲が湧いてきます。
しかし、たくさん食べても糖分を有効活用できないので結局は飢餓状態は改善されずケトアシドーシスという状態に突入します。
だから、糖尿病の場合は食欲があるから大丈夫という訳ではありません。
3.食べているのに痩せていく
インスリン不足で細胞が飢餓状態になると、体はなんとかエネルギーを作り出そうと脂肪を分解して緊急エネルギーに変え始めます。
なので、異常に食べているのに痩せていくという不思議な症状が起こります。
ちなみに人ではこの痩せていくメカニズムを意図的に引きおこしてダイエットをする方がいらっしゃいます。
糖質制限という方法で自分の体をわざと糖尿病状態にする訳ですね。
特有のケトン臭がするのをダイエットがうまくいっている証拠と捉えているみたいですが・・・。
4.元気消失
糖尿病は食べても栄養として入らない状態ですから、体はエネルギー不足でどんどん弱っていきます。
糖尿病初期では割と元気なので、元気が落ちてきたら病気として一歩進んだ状態と考えられます。
当たり前ですが、病気が進めば進むほど治療は難航します。
糖尿病の治療方法
- 食事療法
- インスリン注射
- サプリメント
糖尿病の治療方法はいくつかの選択肢があります。
しかし、犬の糖尿病の特殊な性質の影響でほとんどのわんちゃんでインスリン注射が必須になります。
私の知る限りでは獣医療で血糖降下剤は使用されていません。
ちなみに今回まとめているのは飼い主様側の基礎知識なので糖尿病急性期の治療方法については割愛します。
今後記事でまとめたらリンクを貼っておきます。
1.食事療法
糖尿病が軽くても重度でも専用の糖尿病療法食に変更すべきでしょう。
食後の血糖値の乱高下を穏やかにするために、低GIに作られている療法食に切り替えることはとても大切です。
しかし、費用や好みにより療法食に切り替えるのが難しいのであれば安定して食べられる元のフードでも構いません。
おやつは与えても構いませんが、決められたカロリー内での量になるよう注意する必要があります。
当院では糖尿病の子にも安心して使えるおやつもありますのでご興味があればお問い合わせください。
たかつきユア動物病院(木曜・日曜・祝日休診 9:30-12:30、16:00-19:00)
2.インスリン注射
インスリン注射は1日2回で行います。
中間型と呼ばれる作用がそこそこ長めのインスリンを使うことが多いです。
中間型インスリンで血糖値のコントロールが難しければ他のインスリン注射を検討します。
人と違い、注射をする部位によってインスリンの効きが変化することは無いと考えられています。
3.サプリメント
ある種のサプリメントが糖尿病の血糖値コントロールに良い影響が出る可能性があります。
ただし、薬ほどにしっかりとしたエビデンスはありませんので専門書には現在記載されていません。
ごく一部の例外について
糖尿病のわんちゃんのごく一部では、標準的な治療をせずとも血糖値をコントロールできる子がいます。
以下が標準治療をせずとも糖尿病コントロールが可能なケースです。
- 基礎疾患によって二次的に糖尿病を起こしていた子が、基礎疾患の治療だけで血糖値が正常化する
- 糖尿病がかなりの初期で定期的な点滴/療法食への切り替えのみで正常血糖値を維持できる
- インスリン治療は必要だが1日1回の注射だけで良好に管理できる
ただし、ごく一部と書いてある通りにこのケースに当てはまる子は1割もいません。
大多数の糖尿病患者では1日2回のインスリン注射が必要になります。
注意したい!低血糖の怖さ
インスリン治療をしていると、色々な理由により低血糖を起こすことがあります。
- インスリン量が過剰
- インスリンを打ったけどその後にフードを食べなかった
- 他の病気を治療したらインスリンがよく効くようになった
- インスリンを新しいボトルに交換したらよく効くようになった
高血糖と違い、低血糖は即座に命に関わる危険な状態です。
もし、インスリン注射後〜9時間後の間に眼がうつろになったりフラついたり痙攣を起こした場合はすぐさま動物病院に向かいましょう。
すぐさま動物病院に向かえない状況であれば、ガムシロップ(人工甘味料ではないもの)を歯茎や舌に塗りつけてください。
ガムシロップが無い場合は30-50%の砂糖水(100ccの水に30-50gの砂糖を加える)やハチミツでも代用可能です。
ある程度意識がしっかりしてなんとか食べられる状態に戻ったら好みのフード・缶詰・パウチ・おやつなどを駆使してとにかく食べさせてください。
糖尿病にならないためにしてあげられること
糖尿病の発症原因のひとつとして『太っていること』があります。
太っている状態は体内で分泌されるインスリンの効きを悪くさせるため、糖尿病を発症しやすくなります。
適正体重・適正体型を保つことで発症リスクを抑えることが可能です。
ただし、肥満でなくても糖尿病を起こす子はいますので、多飲多尿の症状が出た場合は速やかに病院を受診し血液検査など必要な検査を受けましょう。
糖尿病の子の未来
しっかりと治療や定期検査をして、糖尿病を良好にコントロールできれば機嫌良く過ごし天寿を全うすることが可能です。
ただし、他の病気が重なった時にはたいがい糖尿病が悪化しますのでより繊細に体調の管理をする必要があります。
糖尿病の子は、体調や食欲などに少しでも違和感があったら速やかに病院を受診することが肝心です。
終わりに
- 糖尿病とは体内のインスリンが足りなくなって高血糖を起こす病気
- 治療をせずに放っておくとどんどん衰弱して最悪亡くなってしまう
- 多飲多尿・異常な食欲・痩せていくという症状に気付いたらすぐに動物病院へ
- ほとんどの子で1日2回のインスリン注射が必要だが良好にコントロールできれば機嫌良く過ごせる
- 低血糖と思われる症状が出たらすぐに病院へいったり自宅で応急処置をすること
この記事を読んで「ウチの子、糖尿病かも?」と心当たりがある方はなるべく速やかに病院を受診してください。
気になることがあれば当院までお問い合わせください。
たかつきユア動物病院(木曜・日曜・祝日休診 9:30-12:30、16:00-19:00)