院長の木村です。
今回の記事では「犬の認知(痴呆)症の症状と改善法」というテーマで解説します。
高齢犬を飼っているご家庭では、時として認知症状、特に夜鳴きに悩まされることがあります。
実際に夜鳴きが始まってしまうと、家族が寝られず疲弊してしまったり、ご近所への迷惑が気になったり…
本当にどうしようも無くなった場合に、安楽死を希望される方もいるほどです。
そんな認知(痴呆)症についての情報を改めて整理していきます。
100%改善する特効薬は残念ながらありませんが、何かできることがあるかもしれません。
一緒に勉強していきましょう。
認知(痴呆)症状とは
認知症状には、実は以下のように様々な種類があります。
- 家の中で迷う、行き詰まる
- 無関心、ボーっとする
- 過剰な徘徊行動
- 夜鳴き
- トイレの失敗
- 不安行動の増加
その中でも一番目立って家族としても問題視されやすいのは過剰な徘徊行動や夜鳴きです。
両者は一緒に過ごしている家族の精神力を消耗したり、あるいはちゃんとした睡眠が取れず肉体的に疲弊したりすることが多くあります。
またトイレの失敗も、家族の生活状況などによっては大変困ることもあります。
どうして認知(痴呆)症状が起きるの?
脳への酸化ストレスや神経細胞の異常などが言われていますが、正確な病態ははっきり分かっていません。
更なる研究や報告が待たれます。
認知(痴呆)症状が起きやすい年齢、犬種は?
2007年の報告によれば、11〜12歳で約28%、15〜16歳の約68%が認知機能の低下を示すそうです。
犬種では、和犬の雑種や柴犬で多く発症している報告もありますが、逆に犬種による差は無いとしている報告もあったりとまちまちです。
ただし私の体感上では、やはり和犬や柴犬で典型的な認知症状が出やすい印象はあります。
認知(痴呆)症状を改善するためには
結論から言えば、認知症状を100%改善あるいは消失させる治療法はありません。
ある程度効果が認められたり、効果が見込まれる治療をできる範囲で複数組み合わせることになります。
環境療法
飼育環境を整える環境療法が症状の改善や併発トラブルの回避に有効です。
具体的には部屋で迷ったり行き詰まるようであれば(特に円形の)サークルで囲うこと、不安が強い子はご家族が視界に入るようにお気に入りの場所を作ることなどです。
また多くは高齢で、視力・聴力・記憶力・運動能力などが低下している場合がありますので、トイレ・水場・食事場所を近くに設置し以降は場所を変えないようにするのも有用です。
自分で思い通り動けず鳴き出す子もいますので、足元にマットや絨毯を敷いて動きやすくするのもいいでしょう。
サプリ・食事治療
前述の通り、原因の一つとして脳の酸化ストレスが言われていますので、抗酸化系のサプリや食事療法が奏効する場合があります。
当院でも、そのうちいくつかのサプリやフードの取り扱いがございますので、どうぞご相談ください。
ちなみにサプリや食事療法は、認知症状が本格化する”前に”開始したほうが効果が高いとされています。
早め早めの行動を心がけましょう。
薬物治療
認知症状やそれに伴う問題行動改善のために、下記のようないくつかの薬が選択肢に入ります。
- 塩酸ドネペジル
- 塩酸セレギニン
- ベンソジアゼピン系薬剤
- 抑肝散
- アセプロマジン
それぞれは作用メカニズムが異なる薬で、症状や体質に合わせながら少ない用量から開始します。
ただし、私は3つの動物病院での勤務歴がありますが、上記のような薬物を常備している病院は一つもありませんでした。
※ごく一部の薬は別用途で置いてある場合もあります
当院でもほとんど置いておらず、必要であれば入荷する形となります。
もし試してみたいという場合は、かかりつけ医にまずご相談いただくといいでしょう。
薬物治療をご希望であれば、病院としては薬剤を入荷するか判断することになると思います。
認知(痴呆)症状以外の原因を探る
実は認知症状と思っていても、わんちゃんはそれ以外の病気が原因で鳴き続けたりすることがあります。
高齢であれば慢性関節炎や歯周病、免疫力が低下しているなら膀胱炎、皮膚が悪いなら外耳炎など、健康管理も重要です。
年齢に伴う認知的な変化はある程度致し方ありませんが、他の原因を治療することで認知症状と思っていた症状が消えたり軽くなる場合もあります。
もし頻繁に動物病院に通っていないのであれば、一度健康診断をして他の病気が隠れていないかチェックしてみましょう。
最後に
認知症状は残念ながら100%治しきることが難しい病気です。
いえ、病気ではなくある意味生き物としては当然の生理現象なのかもしれません。
それでも、わんちゃん自身とそしてご家族のために何か出来ることがあるかもしれません。
どうぞお悩みの方は、一度動物病院をご受診ください。