院長の木村です。
今回は猫の膀胱炎についての記事となります。
さて猫の膀胱炎は日常的に遭遇する病気であり、猫を長く飼育していたり多頭飼いをしていたりするオーナー様は1度は経験したことがあると思います。
そこで本記事では猫の膀胱炎の症状や原因、診断法や治療法などについて紹介し、病気の予防や管理に役立てていただこうと思います。
では早速見ていきましょう!
結論
- 猫の膀胱炎は頻尿などの排尿異常の他、一見関係なさそうな症状も起きる
- 膀胱炎の治療は診断から始めるので、まず検査を受けましょう
- 膀胱炎に似た症状の尿道閉塞を疑う場合はなるはやで病院受診を
猫の膀胱炎とは
猫の膀胱炎とは、何かの原因によって膀胱に炎症を起こし頻尿や血尿などを引き起こす病気です。
膀胱炎そのものはありふれた病気であり適切に治療をすれば軽快しますが、一部の膀胱炎では結果として命に関わることもあるので注意が必要です。
膀胱炎の症状
膀胱炎の主な症状は以下の通りです。
- 頻尿(経験的には1日5回以上あれば異常の可能性あり)
- 血尿(褐色〜赤色まで様々)
- 排尿をためらう動作や排尿時の低い鳴き声
- 少量尿(1滴〜数滴レベル)
- トイレ以外での排尿・トイレの失敗
- 陰部や下腹部の過剰な舐め行動
- 飲水量の増加傾向
- 嘔吐
1〜5は排尿行動や尿そのものの異常となりますので分かりやすい一方、6〜8は知らなければ膀胱炎と結びつかない症状です。
当てはまる症状が多いほど強く膀胱炎を疑いますので、観察ポイントとして覚えてみてください。
なぜ6〜8の症状が起きるのか?
ちなみになぜ一見、排尿とは関係が無い症状が起きるのでしょうか?
これらはあまり教科書的では無い症状なので、筆者の推測も交えて簡単に解説します。
陰部や下腹部の過剰な舐め行動
膀胱炎は過剰なしぶり・いきみ行動や炎症の波及などによりペニスや陰部方面にも痛みや違和感を起こします。
そのため(主に雄猫の)膀胱炎では、ペニス先を舐め続けるという症状が現れます。
猫の舌はヤスリのようなものなので、舐め続けるとペニス先が徐々に真っ赤に腫れ上がっていきます。
また下腹部に存在する膀胱に炎症が起きると、下腹部の鈍痛を引き起こします。
※膀胱炎を経験した方や女性ならばイメージしやすいでしょう
猫は内臓の違和感に対して舐めてなんとかしようとしますので、結果として下腹部を過剰に舐める行動を取ります。
そうすると皮膚炎が起きますがそれはあくまで二次症状ですので、根本原因である膀胱炎を治さないといつまで経っても舐め続けます。
飲水量の増加傾向
この症状はなぜ起こるのかは分かりません。
膀胱内にある細菌や炎症物質を押し流そうと、排尿量を増やす生体の働きのようには感じます。
ただし、糖尿病や腎臓病レベルの異常な飲み方ではなく「いつもより良く飲むなぁ」といった程度です。
嘔吐
膀胱炎で嘔吐を起こす原因は、おそらく炎症痛により下腹部に頻回に力を入れて腹圧が断続的に上昇することが影響すると思われます。
ただし消化器病のように頻回に嘔吐する訳ではありませんし、嘔吐をしない膀胱炎猫の方が多いので注意してください。
膀胱炎の原因
次になぜ膀胱炎が起きるのか、その原因を紹介します。
膀胱炎が起きる主な原因は以下の通りです。
- 原因不明(特発性)
- 尿石症
- 細菌感染
- 腫瘍
- 膀胱の過剰伸展
実は症例の約半数は特発性という原因不明の膀胱炎です。
若〜中年齢に多いとされていますが、コレといった原因が見つからず数日〜数週間耐えているうちに勝手に治ります。
ただしきっちり症状は出ますので、無治療というのは見ているご家族にとって心苦しくなります。
そしてストレスなどが関係すると言われていますが、はっきり分かっていないことが多いので獣医師からはちゃんとした説明を受けられません。
他はストルバイト・シュウ酸カルシウムを代表とする尿石症からの続発、または細菌感染がメジャーな膀胱炎の原因です。
膀胱炎の診断
膀胱炎と診断する上で欠かせないのが尿検査です。
尿を調べることにより尿石症や細菌感染の診断のみならず、腫瘍や膀胱炎以外の併発疾患を推測できることもあります。
それ以外にも腹部レントゲン検査やエコー検査もなるべくルーティンに行いたい検査です。
ただし検査ストレスが強かったり治療費の問題などを勘案して省略することもあります。
ちなみに「膀胱炎っぽいけど、猫を連れてこれないから抗生物質だけ処方して」というのは獣医師サイドからすると極力お応えしたくないご意向です。
せめて家で尿だけでも採取して、尿検査を受けましょう。
膀胱炎の治療
膀胱炎の治療は実は原因によって全く異なります。
一番多い特発性膀胱炎では、直接効く治療法が無いので様子見となります。
経験上、1〜2回の皮下点滴や単発のステロイド注射が効く子が多いようにも感じますがエビデンスはありません。
それ以外には、トイレを含む自宅環境の改善、フード変更、サプリの使用なども検討します。
尿石症や細菌感染による膀胱炎ではそれぞれ、尿石症用療法食や抗生物質を使用します。
ちなみに細菌性膀胱炎を繰り返す猫では、何か特殊な基礎疾患を抱えている可能性大ですので精査が必要です。
膀胱に腫瘍を疑わせる影が有った場合は、基本的に腫瘍細胞の腹腔内播種リスクを考えて針生検は行いません。
特殊な尿検査やCT検査などを駆使して診断し、それに合わせた治療をしていきます。
膀胱の過剰伸展では膀胱炎の基礎疾患や環境要因を抱えていますので、丁寧な問診や画像検査を併用して診断を進めます。
必要に応じて一見膀胱炎と関係の無さそうな全身のスクリーニング検査を行い、見つけた疾患に合わせた治療を実施していきます。
膀胱炎っぽいと思ったら
家で猫が膀胱炎のような症状を出していると思ったら、速やかに動物病院を受診し検査を受けましょう。
ただし猫では性格の問題で、病院に連れていくこと自体が強いストレスになる場合があります。
もしそういったご心配があれば、まずは家で新鮮な尿(半日以内のもの)を採取して尿検査に持っていきましょう。
※病院によっては尿検査のみでは受け付けられないことも有りますので事前にご確認ください
また、膀胱炎に似た症状を出す尿道閉塞という病気があります。
もし”トータルの”排尿量が明らかに少ない、腹部が張っている/触ると怒る、ぐったりしているなどの症状があれば、ストレスがどうのと言っている場合じゃない可能性があります。
その際は、なるべく速やかに(場合により夜間病院受診も検討)診察に向かいましょう。