院長の木村です。
これから冬に入って寒さが厳しくなってくると猫風邪が多くなってきます。
中には年がら年中、風邪症状が起きている子もいるでしょう。
猫風邪は治せるものなのか、どういう治療法があるのかを解説していきます。
猫風邪とは
くしゃみや鼻水、流涙、発熱などを主徴とした病気です。
風邪と付いている通り、イメージしやすい症状ですね。
『猫伝染性鼻気管炎』の原因であるヘルペスウイルスの他にカリシウイルスやクラミジアも似たような症状を引き起こします。
これらの原因ウイルス(細菌)は混合感染することもあります。
かかりやすい猫
まずストレスがかかりやすい、あるいは持続的にかかり続けている子です。
具体例は以下になります。
- 猫風邪以外に持病を持っている
- 多頭飼育である
- 頻繁に緊張する場面がある
ヘルペスウイルスが原因で猫風邪を発症した場合は回復した後でも、生涯ウイルスが神経内に潜伏し続けます。
そして精神的・肉体的ストレスがかかり免疫力が低下するイベントがあった時に待ってましたとばかりに暴れ出します。
人でもストレスが強い時に口唇や皮膚に水ぼうそうができるのと同じ理屈です。
あれも原因はヒトタイプのヘルペスウイルスですからね。
もちろん新たに誰かから感染することもあるんですが、自分が持っているウイルスで発症もするというのが特徴ですね。
他には外に出る猫ちゃんですね。
外に出ると何かしらの野良猫との接触が起きると考えられます。
よく喧嘩して帰ってきたりしますしね。
野良猫ちゃんは栄養状態だったり他の病気が原因だったりでたいがい猫風邪を発症しています。
つまりウイルスを撒き散らし続けている訳ですね。
そういう野良猫から感染します。
どういう経路で貰ってくるのか
ヘルペスウイルス
他の発症している猫がくしゃみした際にエアロゾル化した鼻水を口・鼻・眼の粘膜で取り込むことで感染します。
近場に野良猫がよくいるのであれば、換気とともにこの原因物質が部屋内に入ることも考えられます。
それ以外にも直接原因物質を摂取する場合もあります。
「仲良い猫同士で毛づくろいをし合う」なんかは感染機会としては十分あり得ます。
だから多頭飼育だと猫の数だけお互い感染機会が増えていく訳ですね。
カリシウイルス
ヘルペスウイルスと感染経路はほぼ同様です。
感染から回復した後でも30日以上排出され続けたり、環境中でも長期間生き延びたりとしつこいウイルスです。
クラミジア
これだけ唯一ウイルスではありませんが、感染経路は似たり寄ったりで眼と鼻です。
しっかり治療しないとこれもやはり症状が長引く原因になります。
治療はどうしたらいい?
基本的には自力で治すことがメインで、治療薬はあくまで補助と思ってください。
ただ、猫で発熱したり鼻詰まりした場合はとにかく飲み食いしなくなるので一気に体力が削られます。
基礎疾患があったり、そんなに予備体力が無い子(スリムな子)は積極的に通院して支持療法をする必要があります。
ヘルペスウイルス
はっきりと効く治療法はあまり無く、基本的には支持療法(解熱や点滴)をしながら自力で治ることを待ちます。
一応抗ウイルス薬であるアシクロビルやファムシクロビルが有効ではありますが、高価であったり副作用が出たりなど問題点もあります。
最近ではIDUという抗ウイルス系点眼薬が登場しましたので、必要に応じて併用します。
細菌の二次感染が疑わしかったり予防したい場合は抗生剤を使用します。
ただし、抗生剤はヘルペスウイルスには効きません。
無理なく、でも何とか早く治していきたいということであれば以下の治療追加を考えます。
- L-リジンの内服(サプリ・複数あり)
- ネコインターフェロンの注射
- ネブライジング(霧吸入)
基本は自力で治してもらうものになるので、しっかり水分補給をして、栄養補給をして時間経過を待つということになります。
ちなみに食欲増進をさせるために、ミルタザピンという薬を使うことがあります。
苦〜い薬ですが、割と反応が良いのと、当院では耳に塗るだけの製品がありますので必要に応じてお渡ししています。
カリシウイルス
カリシウイルスはヘルペスウイルス以上に効果的な治療がありません。
基本的に支持療法をしながら自力回復を待つということになります。
強いていうのであればネコインターフェロンの注射やネブライジングを検討するというくらいです。
とにかく水分補給と栄養補給が大切ですので、必要であればしっかり通院あるいは入院管理にて点滴などをしていきます。
クラミジア
クラミジアは細菌の一種ですので、それに効く抗生剤を使用します。
眼(結膜炎)にはオフロキサシンやエリスロマイシンの点眼薬を使います。
全身に効かせる必要があればビブラマイシンやアジスロマイシンなどの抗生剤内服を考えます。
予防するためにはどうしたらいい?
まず圧倒的におすすめなのはワクチン接種を怠らないことです。
ワクチン接種をすれば絶対に発症しないというものではありませんが、発症する可能性を下げたり発症しても重症化せずに済んだりします。
特に多頭飼育の猫で誰かが発症してしまうと連鎖して大火事状態に発展する場合も多いですので、皆きっちりとワクチン接種をして小火で済ませなくてはいけません。
区切られた空間で誰かが風邪を発症している状況は、例えて言うなら冬場の人の病院の待合室で生活しているようなものです。
感染せずに済むとは思えませんよね。
他には、治療にも登場したL-リジンを日常的に投与することもおすすめです。
これも発症予防効果が期待できます。
他に原因として考えられるようなストレス要因があれば取り除いてあげるのも重要です。
例えば仲の悪い猫ちゃんがいるのならば、なるべく接触させないように時間帯を分けてそれぞれフリーにするのもいいでしょう。
家の外で工事をしているなどどうしようも無い原因の場合は、フェリウェイやジルケーンといったリラックス効果のあるものを使用するのもアリです。
もし持病があるのであれば、まずそちらのコントロールをしっかりすることをお勧めします。
持病で調子悪くて猫風邪併発→食欲低下や投薬困難に陥り更に持病がコントロールできなくなって…というサイクルに入ってしまうと治療が本当に大変です。
病気は治療ではなくまず予防するという気持ちでいきましょう。
慢性的にズビズビしている子はどうしたらいい?
もしかしたら何か免疫力を下げる基礎疾患を持っているかもしれません。
しばらく受けていないのであれば健康診断をして基礎疾患探しをしてみましょう。
もし基礎疾患が見つかればそちらの治療をして結果的に治る可能性があります。
小さい(手のひらサイズ)時からずっと涙や鼻水が、という猫ちゃんでは治らない可能性が大です。
流涙症は猫風邪を今発症していなくても、過去のダメージで鼻涙管が塞がってしまうと起き続けます。
ただ、今までしっかりと治療をしたことが無い子であれば、一度試験的な抗菌治療だったり点眼・点鼻治療を試してみて良いと思います。
もし、それで全く治療反応が無いようであれば後遺症と考えましょう。
ただし、そういった猫ちゃんは猫風邪を再発しやすいので、体調管理には十分気をつけ怪しい症状が出たらすぐに病院を受診しましょう。
先に述べたL-リジンを予防として常用することもお勧めです。
人にはかからない?
そこは大丈夫ですので安心してください。
原因のウイルスや細菌は猫同士での感染で、人にはうつりません。
しかし、人の体や衣服に付着したウイルスや細菌が他のエリアにいる猫ちゃんを発症させる可能性がありますので管理の仕方には十分注意してください。
最後に
猫風邪は治すというより症状を抑えることは可能です。
しかし、ヘルペスウイルスが体内に潜伏してしまう以上は完治は望めません。
潜伏しているものまで叩ける薬が開発されたらいいんですけどね。
しかし、ワクチン接種をしっかり実施することでかかりにくくなったり、軽症で済んだりします。
とにかく発症させない・予防していくという意識で生活していきましょうね。
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