院長の木村です。

 

もしかしすると皆さんの中には自宅点滴のことを聞いたことがあったり、経験された方がいらっしゃるかもしれません。

 

本記事は、「自宅点滴の話をされた、またはどこかで見聞きして興味がある(試してみたい)けど実際大丈夫なのか心配」という方を想定して作成しております。

 

点滴に関する情報を整理しつつその是非についてまとめてみますので、自宅点滴について獣医の意見に触れてみたいという方はどうぞ最後までお付き合いください。

先に結論

  • 自宅点滴は、病院によっては勧められる場合もあるし、逆に希望しても断られる場合もある。
  • 動物にとってもメリットデメリットが両方あり、通院点滴と比べて絶対にどちらかがいいと決められるものではない。
  • 当院では無し寄りの有りで対応

自宅点滴に向いている条件

自宅点滴に向いている動物あるいはご家庭の例をかいつまんで先に紹介します。

自宅点滴について悩んでいる方はどれくらい当てはまるか見てみてください。

 

全て満たす必要はありませんが、当てはまる数が多いだけ自宅点滴には向いています。

半分も当てはまらないという方にはリスクが高いのでお勧めしません

動物編

  • 性格が大人しく自宅点滴している間じっとするのが容易
  • 性格がシャイで来院ストレスが強い(点滴時に毎回暴れ続ける、保定者に噛みにいく、野良猫の喧嘩時のような声で鳴き散らす、病院から帰ったら半日以上飲み食いせずじっと隠れていたりする)
  • 複数の持病を抱えていない
  • 心臓病を持っていない
  • 洋猫ではない

飼い主編

  • 点滴時にもう一人保定者を確保できる
  • 不器用ではない
  • 怖がりではない
  • 動物の体調変化に敏感あるいは神経質である
  • 心配性である
  • 必要な時の通院に躊躇いが無い
  • 緊急時に夜間病院を受診できる

これらの条件がなぜ問われるのかを理解するために点滴の基本からおさらいしていきましょう。

点滴とは

生命の体にとって水分というのはもっとも大事なものです。


食事を取らなくても水分さえ取れば2−3週間は体は耐えられるの対して、絶水状態では3-4日で限界を迎えることからもその重要性が分かります。

 

各種の病気、体調不良によって起こった水分不足は更なる体調の悪化を招くため速やかに水分を補給しなくてはいけません。

 

その為に病院で点滴をするという訳です。

そして水分補給はただ水を入れればいいというものではありません。

 

点滴によって足りない血液中や細胞の中の脱水を改善されるように適切に入れなくてはいけません。

点滴法の種類

点滴には静脈点滴と皮下点滴の2種類があります。

 

静脈点滴は、皆さんも医療ドラマなどでよく目にする手法です。

ベッドの上に点滴ボトルが吊り下げられてポタポタ落ちてくるやつですね。

 

こちらは点滴剤を入れるための静脈ルートを確保しなければいけませんので原則は入院管理で行います。

 

もう一つの皮下点滴は背中(多くは首筋)に水分を入れてパンパンにする手法です。

 

動物病院に病気で通ったことのある方なら一度は経験されるのではないでしょうか。

 

こちらは準備含めて5-10分程度で終了し、後は自然に体が吸収するのを待つだけの簡単な処置ですので通院治療に向いています。

点滴法の使い分け

実際によく点滴をするシーンを例にあげてみましょう。

 

静脈点滴

先述した通りに主に入院管理時に実施します。

言い換えれば、入院管理が必要なほどに重い体調不良の時ですね。

 

特に急性膵炎、慢性腎不全の急激な悪化時、敗血症(子宮蓄膿症など)では第一の選択肢に入ります。

 

他には手術前後の急激な血圧変動や麻酔リスクをなるべく減らすために静脈点滴を実施することが多いです。

 

皮下点滴

こちらは入院管理の一部でも使用しますが、主に外来診察で実施します。

静脈点滴と比べると比較的症状の軽い場合に使用します。

 

一過性の下痢や嘔吐での脱水、風邪や食欲不振での脱水、慢性腎不全の治療でよく使用します。

 

たまに、どうしても静脈ルートが確保できない子に対して皮下点滴で入院管理する場合もあります。

点滴剤の種類

実際に何を体の中に入れるべきなのかというのは、実は大事な要素の一つです。

 

水分と聞いたらまず水道水を思い浮かべる方が多いと思います。

しかし、生き物の体の内部に雑菌が含まれている可能性がある水分を入れる訳にはいきません。

 

ですので、点滴の水分は必ず専用に作られたボトルないしパックから医療技術を以て生体内部に入れられます。

 

※余談ですが、じゃあ水道水は飲んじゃダメかって言うとそうじゃありません。口から入った水は消化管(口、食道、胃、腸)という外界に入ってから、生体バリアが張られた腸から菌を濾して体に吸収されるのです。点滴はバリアを通らずいきなり生体内に入ってしまうので、そこに菌がいたらすぐさま体へのダメージとして現れます。だから水道水は飲んでもいいけど点滴には使うのはNGなのです。

 

 

さて、じゃあ何を使うのかというと以下が主です。

  • 乳酸リンゲル液
  • 酢酸リンゲル液
  • 生理食塩水
  • 1号液
  • 2号液
  • 3号液

 

医療に関わる方でなければ「生理食塩水という単語を聞いたことがある」程度かと思います。

 

実はこの中に真水は1つもありません。

すべて何かしかの塩分や糖分が入っています

 

これは必要な塩分や糖分を補充するためという意味合いもありますが、本来は細胞の浸透圧に合わせるというのが目的です。

 

浸透圧というのは水を引っ張りこむ力です。

真水で眼を洗ったら染みるの同様に、真水を点滴したら細胞が過剰に水分を引き込み組織にダメージを与えます。

 

しかも真水は血管の中にあまり居てくれないので血圧を維持するという点滴の大事な目的は達成されません。

 

よって、点滴は必ず浸透圧を調整した点滴剤を使う必要があるのです。

 

ちなみに皮下点滴では静脈点滴よりも使える点滴剤の種類が限られます。

皮下点滴で使うのは圧倒的に乳酸リンゲル液が多いです。

 

基本的に糖分が入っている点滴剤や酢酸リンゲル液は皮膚への刺激性があるため皮下点滴では使いません。

 

また、よく皆様がしてほしいと希望される栄養点滴も絶対に皮下点滴をしてはいけません。

静脈点滴でのみ可能です。

 

栄養点滴と言われて皮下点滴している場合は、多分伝わりやすいようにビタミンを混ぜた水分点滴を栄養点滴と表現しているものです。

実際の点滴の仕方

点滴のやり方は病院毎でおそらくかなり違いますので参考程度に読んでください。

 

皮下点滴は自然滴下法を使用しなければおおよそ5-10分程度で処置が終わります。

 

点滴パックから点滴ラインと翼状針を接続し、内部に点滴剤を満たした状態にしてから皮膚に針を刺します。

 

静脈点滴と違い、その処置中は皮膚の下にずっと針が刺さっている状態にあります。

 

ですので点滴中にバンバン動かれたら困る訳ですね。

しっかり保定する必要があります。

 

もし動物が動くと針がその下の筋肉表面を傷つけて痛みや血を出したり、針が抜けると刺し直しになるなどのストレスを与えてしまうので針自体をテープと手でふんわりと固定します。

 

その状態で動物を支え、点滴中にむやみに動かないように姿勢を維持します。

 

病院では加圧バッグという点滴パックを絞り続ける器具を装着するので勢いよく点滴されてすぐに処置が終了します。

 

自宅点滴では点滴パックを人力で絞る(結構手が疲れます)か重力に任せて自然滴下させるかになります。

 

皮下点滴をした場所は一時的にラクダのコブのような状態になります次第に吸収されて無くなります。

 

シニア動物は皮膚の張りがないのであまりコブは目立ちません。

 

入れた点滴剤は重力に従って次第に地面方向に移動するので、点滴後1時間以内で腕や胸がボヨンボヨン(浮腫)になったりします。

 

この浮腫では動物が重さに違和感を感じて手を振ったりすることがありますが痛みはなく、また数時間〜半日したら体に吸収されて無くなるので気にする必要はありません。

 

ただし、丸一日以上経ってもその浮腫が消えないようであれば何か特別に体調がおかしいか点滴量が合っていないのでかかりつけ医に相談すべきでしょう。

 

病院では必要に応じて薬剤を混ぜて皮下点滴しますが、自宅でその薬剤も一緒に処方されることは恐らくないでしょう。

点滴量や点滴頻度

これらはかなり病院ごとで違いが出る項目だと思います。

 

私の意見で述べるならば、犬猫ともに50ml*体重(kg)を週2-3回から開始して様子を見ることが多いです。

 

ただし、その時点での動物の脱水具合であったり病気の進行度、併発疾患、食欲など様々な要素で増減を加えるのでゴールドスタンダードがある訳ではありません。

 

病院によってはもっと少量頻回で開始する場合もあるでしょうし、もっと多い量から開始して逆に減らしていくパターンもあるでしょう。

点滴をする上での注意事項

専門的な話をすれば、点滴剤を選択する時点で色々注意というか考えなければいけないことがあります。

 

点滴剤はそれぞれに得手、不得手が存在しますからね。

 

この中身の話をしだすと訳が分からなくなるので割愛しますが、色々考えて選択する必要があるってことだけ知っていてください。

 

もう一点大事なことが、総点滴量です。

静脈点滴にせよ皮下点滴にせよ、ガンガン入れたらいいと言うものでもありません。

 

それどころか、やり過ぎると肺水腫や胸水など生死に関わる状態に陥ることすらあります。

 

皮下点滴はゆっくり体が吸収するという特性上、静脈点滴より即効性に落ち、その分負荷がかかりにくい手法ではあります。

しかしそれでも体が吸収できる(=一度に耐えられる)水分量には限界があります。

 

点滴量が排泄できる水分量を大きく、あるいは頻繁に超えると行き場を失った水分が体内の空間に漏れ出します。

特に血管豊富な肺周辺が水浸しになりやすく、その結果呼吸困難を起こします

 

こういった副作用は特に心臓病を持っている動物で起きやすくなります。

 

犬では心臓病を持っているほとんどの子で心雑音があるので最初から警戒できますが、猫ちゃんではそうもいきません。

 

猫では隠れ心筋症が多く、心臓エコーをしてみないと分からなかったりします。

 

特に洋猫の血が入っている猫ちゃんは肥大型心筋症のリスクが高い可能性があるので要注意です。

 

通常量を点滴している内に肺水腫や胸水を起こして、そこで初めて心筋症が判明するというケースもあります。

 

心臓病以外にも低タンパク血症や貧血などで点滴の副作用が出やすい場合もあり、持病を複数持っている子は繊細に点滴調整をする必要があります

 

体を楽にするための点滴で状態を悪化させては何の意味もありませんからね。

 

こういった塩梅の判断には当然ながら専門的な知識が必要になります。

自宅点滴という選択肢

病院によっては、慢性腎不全などで日常的な点滴が必要であって頻繁な来院が難しい場合に皮下点滴セット(針を含む)を処方して自宅で皮下点滴をしてもらう場合があります。

 

逆に、毎日とか1日おきなどの頻繁な点滴が必要であっても「何とか頑張って来てください」というスタンスの病院もあります。

 

その判断の違いは何なのでしょうか?

実はどちらが獣医学的に良い悪いというものではなく、どちらかというと病院毎の方針の違いなのです。

病院によってなぜ対応が違う?

私自身が勤務していた3病院では、自宅点滴セットを【処方しない】【どうしてもの場合のみ】【どうしてもの場合のみ】という対応の仕方でした。

 

とは言え、お近くで探せばアッサリ目に自宅点滴を了承してくれる動物病院も見つかると思います。

 

じゃあ何故病院毎に自宅点滴への対応が変わるのかを私見を交えてお話します。

 

私自身はどちらかというと非推奨派ですが、その最大の理由が「来院頻度が落ちるから」です。

 

そりゃ当然ですよね。

だいたい来院が大変な人が自宅点滴を希望するんですもの

 

注意事項で説明した通りに点滴は使い方を失敗すると危険な状態に陥ることがあります。

自宅点滴だと、どうしてもこれの発見が遅れてしまうんですよね。

 

来院頻度が落ちると検査頻度も落ちますので獣医師側からは非常に体調を把握しづらくなります。

 

通院点滴であれば、その都度状態を聞いて副作用が怪しいなと思えば量を減らしたり頻度を減らしたり獣医が微修正をかけられます

 

対して、自宅点滴だと何回分とか場合によっては1ヶ月分とかをまとめて処方するので、飼い主様が異常に気づかなかったらそのまま過剰な点滴を打ち続けられる危険があります。

 

飼い主様が早めに異常に気づいた時であっても、自宅点滴を希望=病院に行きたがらない何かの理由を持っているので、希望的観測で様子見しながら打ち続けちゃうんですよね。

 

「さすがにおかしい」と来院した時には息も絶え絶えというのが起きうるし、実際に他院で自宅点滴を指示されていた子で何例か経験もしてます。

 

あとは隠れて別の病気も併発して体重がゴッソリ落ちていたりとか。

通院点滴だったら途中の診察や検査とかで早めに気づけてたのにーみたいな。

 

特にこういうのは自宅点滴しがちな猫の場合に顕著です。

猫は限界ギリギリまで体調不良を隠す名手ですからね。

 

もし、そういった自宅点滴の負の側面で亡くなってしまったら本当に最悪の事態です。

 

飼い主様からしたら、特に肺水腫なんかだと自分で殺したようなものですし、そのやり場のない強い感情は獣医にも向けられます。

 

どうしてちゃんと説明・確認・指示してくれなかったんだ」と。

 

獣医としては病院に全然こない動物の体調なんて把握できないですし、的確な指示は出せません。

 

「これこれこんな感じなんですけどどうですか?」って電話で聞かれたとしても実際に診ないと非常にコメントし辛いです。

 

こう書くとすごい無責任に見えるでしょ?

 

そうなんです。

だから処方したくないんです。

 

あと、点滴用とはいえ注射針をお渡しすることになります。

 

これが万一にでも麻薬使用に使われたら病院が責任を問われかねません。

 

また、針は必ず医療廃棄という特殊な廃棄手順を踏む必要があるのですが、それをせずポイっと家庭ゴミに混ぜられて廃棄したなんてことがあったり、最悪回収業者が怪我をしたなんてことが起きたら病院側としては非常に苦しいです。

 

それ以外にも、点滴手順の中で飼い主様が操作を誤って怪我をするリスクもあります。

 

自宅点滴の最大のメリットとしては、通院が不可能な故に救命できなかった子が延命できる可能性があることです。

 

つまり、定期的な点滴をしてあげれば生活をできるけど、ご家庭の事情により通院が不可能=治療不能になり命を諦めるというケースでは、その状況を自宅点滴で何とかひっくり返せます。

 

また、仮に何とか通院できるといってもその度に仕事を早退するようでは飼い主様の社会的立場を悪くさせる懸念がありますが、そういった時にも自宅点滴は強いですね。

 

もう1点、頻繁な来院で強度のストレスを抱えるタイプの動物では自宅点滴により安楽な治療生活を送れます。

(多分一般的に思う来院ストレスの1−2段階上の状況です)

 

どちらにせよ定期的な来院や検査は必要ですけどね。

 

こういったメリット・デメリットを総合的に判断するので自宅点滴を指示する病院もあれば逆に断る病院もある訳です。

当院での対応

無し寄りの有りという対応をさせていただいています。

 

処方する場合は納得するだけの理由があり、かつ点滴操作も問題のない信頼できる方に限定しています。

 

ですので、初診の方からいきなり「自宅点滴したいんですけど」とお申し出があっても断る可能性が高いです。

 

私自身、その動物さんのことを把握できていない段階ですしね。

 

どうしても自宅点滴をしなくてはいけない→その動物の情報やご家庭の状況を把握できている→自宅点滴も問題なくできる

(実際に私の目の前で針を刺して点滴していただきます)

 

これら最低限のハードルを乗り越えていただけたらご相談するという感じです。

 

当院は利便性の高い病院を標榜してはいますが、自宅点滴に関しては私の中で手放しに推奨できないということでどうぞご理解ください。

まとめ

自宅点滴は便利で使い方によっては動物にも、ご家族にもメリットのある治療法である反面、獣医の管理下から遠ざかってしまうことで不測の事態が起きやすい性質を持っています。

 

もし、本記事を読んで自宅点滴を希望される方はかかりつけ医とよく相談し、またちょっとした体調変化でも密に連絡を取って治療を進めていってください。

 

定期的な検査や体重測定なんかも必要ですよ!

 

関連記事はコチラ

【獣医師監修】猫の慢性腎臓病ってどう治療していくの?