院長の木村です。
ペット保険に入ったほうがいいかどうかという質問を定期的にいただきます。
お答えしてお力になりたいのは山々ですが、獣医師はペット保険のプロではありません。
詳細を知らないものを比較してどちらの保険が優れているなんて話は無責任ですので、違う側面から考えてみたいと思います。
と、いうことで本記事は『獣医師がペット保険をお勧めしたくなる人3選』についてです。
なお、特定のペット保険を推奨したり、全員に保険加入を勧める内容ではありませんのでご了承ください。
この記事を読んでいただきたい人
- 知人やショップ店員にペット保険を勧められて加入を検討している
- 保険の内容について調べたけど色々複雑で結局何が正解か分からない
- とりあえず加入はしているが自分にとって本当に必要なものか悩んでいる
獣医師から見た保険加入をおすすめしたい人
- 心配性の方
- 家計に余力があまり無いけど積極的な検査・治療を望まれる方
- 高額な検査・治療であってもやれることはしてあげると決めている方
ペット保険とは
人の医療保険や生命保険と違い、ペット保険は基本的に掛け捨てタイプのみの保険になります。
月々〇〇円や年✖✖円の支払いで、通院や入院した時には補償が受けられる。
ただし、通院などをしていなくても保険料は戻ってこない・積み立てられないというものですね。
ペット保険サービスはどんどん新たな会社が参入してきていますので、今後は人のもの同様に色んなタイプの保険商品が出てくるかもしれません。
保険で補償される範囲
まず大雑把にいうと『通院』『入院』『手術』という分類別に補償されます。
しかし、保険会社や加入プランによっては一部が適応外になる場合もあります。
補償割合でいうと50%や70%補償というのが一般的ですね。
(50-30%が自己負担という意味)
費用の半分以上が補償されるのはかなり大きいですよね。
また、意外な盲点ですが、先天性疾患や予防関連、健康診断、療法食を含むフード・サプリ関連では補償は効きません。
あくまで病気に関わる検査と治療行為(医薬品類)に補償対象を限定しています。
ペット保険会社も営利企業である以上、多額の支払いが最初から確定しているようなジャンルに補償するのは厳しいです。
赤字を出して保険会社が潰れたら、そこに勤めている方やそのご家族が路頭に迷いますからね。
これは保険会社がセコいとかそういう話ではありません。
保険とは、会社とはそういうものです。
ペット保険に入るメリット①|高額な治療が選択可能になる
補償が受けられることにより、高額の治療や検査が選択肢に入ります。
これは結果的には動物にとって健康的で幸せな生活を送れる可能性が上がります。
ところで一口に『高額』といっても、どの程度かは人によってイメージが異なるでしょう。
誤解を恐れず、10年の獣医師キャリア(3病院に勤務歴有り)を持つ私の感覚でお伝えすれば、
- 月の内服薬代で4万円以上
- 1回の通院での検査治療で3-5万円以上
- 1回の入院で15-20万円以上
- 1回の手術で30-40万円以上
これらは文句なく高額と言えるでしょう。
このレベルの治療費になると病院側としても「当院でできることは全てさせていただきました」と胸を張って言えます。
逆に言うと、これらを下回るとどこかで妥協する点が出てきます。
※動物の状態や病気によって幅はあるのであくまで一般論として読んでください
大切なペットのためには負担なくできる検査や治療は全てしてやりたい…
これは飼う側にとって当たり前の気持ちですし、病院側もそのご希望を叶えたいというのは本心です。
しかし反面、無い袖は振れないことも事実です。
これは自分たちで稼いで生活しているなら誰しもが知っていることです。
獣医師目線では、「この費用を出せば満足のいく治療結果が得られる」と分かっていても、その治療費を払うことで家族の生活が破綻する未来が見えていたら提案はできません。
保険に加入していたら、こういったレベルの検査・治療が(やるかどうか別にして)選択肢に入ってくるということです。
ペット保険に入るメリット②|家計への負担を分散できる
さて、高額治療のイメージができたところで家計へのインパクトを考えてみましょう。
高額治療は外科や抗癌治療が代表格になりますが、1回の手術あるいは1クールの治療で20-30万円というのは家計への負担はかなり強くなります。
また、多頭飼育をされている方なら経験されたことが多いでしょう。
なぜかみんな一斉に病気になるあの現象です。
Aちゃんの通院治療がやっと終わりかけたらBちゃんが調子悪くなって…なんてのはよくある話です。
特に動物同士の年齢が近いとシニア期に一気に通院頻度が増えます。
こういった時に保険を加入していなかった場合、本当に羽が生えたようにポンポン治療費が飛んでいきます。
逆に言うと、保険に加入していればこういう治療費が集中するタイミングでも補償によって家計への負担は最小限に止めることができます。
皆さんの中にも大切な我が子のために少しずつ治療費や動物用資金として日々の生活の余剰金を確保されている方は多いでしょう。
イメージしてみてください。
万一重大な病気にかかって高額な治療費が必要になったら、その資金は耐えられるでしょうか?
もし耐えられない場合はやはり「治療はしてあげたいけど無い袖は…」ということになります。
そう考えると、保険加入はその一発大きな負担を月や年単位で分散する効果があるとも言えます。
一方で保険加入をしていない場合、そういった高額治療や検査をしないという選択も当然あり得ます。
しかし実際にはどうでしょうか。
例えば愛するペットがソファから飛び降りて骨折してしまったケースを考えてみましょう。
前足がプラプラになっていて、手術しなかったら二度とその足が使えなくなると分かっても放っておけますか?
例えばおもちゃを誤食してしまいゲーゲー吐き倒してぐったりしているケースでは?
このまま放っておけば衰弱して亡くなることが分かる中、家で様子見という選択肢を取れますか?
その選択が良いか悪いかという議論は置いておいて、少なくとも相当な勇気が要る選択肢です。
自分が見殺しにしたんだと思わせられるような非常に辛い選択肢です。
こういったケースでほとんどの方は、やはり手術や治療・検査を希望されます。
治療の価値自体にはご納得・満足されますが、正直当時の出費はきつかったと苦い顔で回顧される方が多いです。
想像以上の重大な治療が発生した時には、下手したらしばらくの間、削りたくない出費(お子さんの教育費とか)まで抑える必要が出るかもしれません。
保険があれば、こういった巨大な出費が分散され家族の生活の安定性を底上げしてくれます。
ペット保険に入るメリット③|通院しやすくなる
保険に加入することで通院がしやすくなるのは動物もそのご家族にとって喜ばしいことでしょう。
費用の心配が下がれば通院へのハードルも下がります。
結果的には大事ではなかった症状でも、通院や検査しなければ重症なのか軽症なのかは分かりません。
しっかりとした検査を受けられるというのはご家族にとっては安心できる要因でしょう。
病院側として保険に加入されている方へのほうが遠慮なく検査提案をできるという側面もあります。
※もちろん提案自体は皆さんにしますけどね。費用を抑えたい方に費用のかかる検査・治療を次々に勧めると不快なお気持ちにさせてしまいますので、正直説明の仕方はだいぶ変わります。
また、病気は早期発見早期治療をしたほうがトータルの治療費が抑えられる傾向にあります。
例えば先程の逆で、ちょっとした症状が実は重大な病気の前兆であることも考えられます。
小さなイボが実は悪性腫瘍だったパターンを考えてみましょう。
早期に検査して転移する前に手術(トータル10-15万円)すれば完治まで狙えていた。
これが検査費をなるべく抑えたいからと、大きくなるまでまず様子見をしていた間に転移してしまうとどうなるのか。
外科手術+放射線治療(トータル60-80万円コース)や外科手術+抗癌治療(トータル40-50万円コース)にまで発展することもあり得ます。
しかも治療での体の負担はかなり強くなるし、治るかも分からなくなるしとかなり状況は悪くなってしまいます。
治療の余地があればまだ良いほうで、転移病巣に対して有効打が無くて治療は諦めいきなり緩和ケアに入ることになるかもしれません。
通院しやすいというのは、病気が最悪の事態まで進行するのをなるべく防ぐという意義があります。
ペット保険に入るメリット④|その他
保険によっては専任獣医師の相談窓口やしつけ教室など付帯サービスが受けられることもあります。
あくまでこういったサービス目的で加入する訳ではなく、ついでに付いてきて嬉しいといった内容ですね。
どういう人が保険に入るべきなのか
さて、ここからが本題です。
これもやはり当人にとっては盲点だと思いますが、第三者的な立場で見ると保険に入ることをおすすめしたくなる「人」がいます。
①心配性の方
心配性の方は保険に入るべきと考えます。
例えばペットが嘔吐したものに血が混じって、いつもよりは元気や食欲が無いケースを考えてみます。
割と楽観的だったりざっくりとした性格だったり忙しい方の場合は、まず様子見から入ることが多いでしょう。
症状が継続したり悪化したら病院に連れていこうという考え方です。
対して心配性の方は、めまぐるしく頭の中に悪い考えが駆け巡ります。
「実は重症で素人判断で朝まで様子見している内に手遅れになったらどうしよう」
「思いもよらない大病の前兆かもしれない」
「(その子がいない生活を想像して)そんなの絶対に耐えられない!」
こういった方は動物の体調変化に対して精神的なストレスが非常に強いです。
病院でしっかり検査し、必要に応じて治療することで安心感を得るという行為への価値が高いとも言えます。
その分、病院としても重大な病気を除外するために検査したり、試験的治療として点滴や内服処方をしたりする訳です。
こういった都度都度の通院が自身やご家族から予想される方には断然保険加入をお勧めします。
※こういう通院が悪い訳ではありませんよ。むしろ私は重病除外のための検査は推奨派です。
②家計に余力があまり無いけど積極的な検査・治療を望まれる方
ペット保険に入るメリット②で保険が家計への負担を分散する性質があることを説明しました。
短期間での高額治療費への余力が無い、だけどなるべく検査や治療は受けさせたいというご家庭では加入をお勧めします。
「ウチでは何があっても、◯◯円以上は出せないし、出さない」ときっぱり考えている方なら別ですが、大多数の方はキツくても治療を選ばれます。
その際に、本当に必要な出費を削ったり最悪ご親族等に借金をするというのは色んな意味で代償が大きいです。
しばらくみんなのお小遣いが減る程度ならまだいいんですけどね。
そうなりそうなら最初から生活設計に少額の保険料として組み込んでしまうという考え方です。
逆にペット医療に対しての蓄財が常に(私の感覚で)30-50万円ある方は、保険に入るメリットはやや薄くなるのかなと思います。
あくまで掛け捨てですからね。
③高額な検査・治療であってもやれることはしてあげると決めている方
ある程度高額な検査・治療でもそこは最初から覚悟しているよという方も保険加入へのメリットがあると考えます。
治療に対して妥協しないと決心している場合は、保険が効果的に使えるシーンが多くあります。
通院、入院、手術の際、いずれも入っておいて良かったと思うことでしょう。
逆に言うと、総合の医療費次第で治療を進めるか止めるかを決めるという方ではややメリットが薄いと思われます。
この理屈はパッと見、変に思われるかもしれませんが以下の通りです。
保険料率にもよりますが、高額な検査・治療をする際にはご自身でもある程度(数万〜20万円くらい)の負担は必要になります。
高額でなくても、シニア期の通院では自己負担率に応じたそれなりの出費が都度発生します。
これらの出費で立ち止まる可能性がある方は保険料が無駄払いになる可能性が高いです。
健康な時にひたすら保険料を支払っていても、いざ大病(保険が最も威力を発揮する)のシーンで使わなければ保険加入する意味の大半は失われてしまいます。
これは医療費のことだけではなく、あまり治療介入せず自然な流れで看ていきたいというご意向が強い場合にも言えます。
高額になるほどの強度の治療であれば、すでに動物が苦しい思いをしている時間をある意味延長させたり、一時的であっても悪化させることもあります。
点滴を何本も繋がれ、意識も虚ろでただただ痛みに耐えている日々がしばらく続いたり。
治療直後はちょっと楽になるけど数日経ったら悪化してを繰り返していたり。
こういう闘病生活をさせたくなくて、例えば早々に安楽死や自然看取りを検討される方は保険に入る意味はほとんど無いでしょう。
※一応ここでも注意書きですが、こういうお考えが良い悪いというお話では全くありませんからね。
どういう動物が保険に入るべきなのか
これは科学的根拠が無いのですごく説明しにくいのですが、一応あります。
一言で言うと小さい頃から病弱な子です。
不自然に体重が乗らなかったり、月齢の割りに大人しかったり、小さい頃から謎の下痢や体調不良が多かったり。
(関係者各位の努力の結果と思いますが)そう言う子はだいぶ見かけなくはなりました。
あと個人的には、その品種の特徴を強烈に出している子はその品種に多い病気をしっかり発症してくる印象があります。
※エビデンスなし。経験としてのみ。
犬のチワワで言うなら、でこっぱちで眼が離れていて顎が小さい漫画のキャラクターデザインのような顔をしている子です。
病気としては心臓病や水頭症ですね。歯列の乱れも強い印象です。
M・ダックスだと、皮膚がダルンダルンで足が太くてアシカのヒレのように外向いてたら将来腰やりそうな子だなと思います。
猫のスコティッシュフォールドで言うなら、耳が小さくて綺麗に曲がっていて正面顔がまん丸のフォルムをしているような子ですね。
心臓病や変形性関節症が心配になります。
こういう勘みたいなものは経験値にかなり左右されるので、例えば何頭も同品種を歴代飼育してきた等といった経験が無いと判断は難しいと思われます。
こういった子達であれば通院頻度は増えるので、保険加入によって補償されるシーンは多くなるでしょう。
ただ、通常見分けるのは難しいですし、もし聞かれても色々な意味で回答しかねますのでご了承ください。
保険加入に際しての注意点
先に述べたような病弱な子が保険加入前に色々診察を受けたりしていると、その受診理由は補償の対象外になり得ますのでご注意ください。
同様に少し遅めに保険に加入した場合でも、やはりその時点で持病があった場合は補償対象外になります。
約款にもよりますが、例えばしっかりと保険を使いたい心臓病治療であっても、以前から心雑音を指摘されていたらアウトの可能性が高いです。
加入前に1回でも尿石症と診断されたら、その後しばらく元気に過ごしていたとしても尿関連の検査治療はおそらく補償対象外でしょうね。
意外とこういう補償対象外の病気のことを見落として加入を考える方もいらっしゃるので十分注意が必要です。
一部の方からは、(事実は別にして)「こういった場合には上手いことなんとかならんか」という趣旨で時々ご質問をいただきますが、何ともなりません。
動物病院としては、保険会社から請求内容への問い合わせが有った際には事実のみをお伝えします。
嘘偽りを述べて保険を適応させたらそれはもう保険金詐欺ですからね。
まとめ
当記事は最初に述べたように、特定の保険を推奨したり全員への保険加入を推奨するものではありません。
獣医から見た、ペット保険への加入を勧めたくなる人というのが一番のテーマになります。
獣医療もどんどん高度化・細分化していきますし、飼い主側の健康意識も高くなることに比例して、必要な獣医療費も増加傾向にあります。
ペット保険も飼育する方全員に向くような万能のものではありません。
必要な方が上手く活用して、よりよいペットライフを過ごしていただければと思います。
その為の一助になればと思い、だいぶ主観的な記事内容になってしまっていることをご理解いただければ幸いです。