院長の木村です。

 

そろそろまた今年も、春のフィラリア予防の時期がやってきます。

 

皆様はしっかり毎年予防していただいているでしょうか?

 

本記事では有名だからこそ改めて知っておきたいフィラリア予防についての知識をまとめてみます。

 

ご自身の中で情報を整理、あるいはアップデートするために今一度ご確認ください。

フィラリア症について

「フィラリア症」とはフィラリアという寄生虫による感染症です。

 

フィラリアは細長いそうめんのような形をした寄生虫で、主に犬の心臓〜肺血管に寄生します。

※どういう虫か気になる方は「フィラリア」で画像検索してください。ただし閲覧注意です。

どんな症状が起きるのか

犬のフィラリアでは主に心臓に関わる症状が発生します。

 

例えばうっ血性心不全、呼吸困難、末期では腎不全や肝不全も起こすとされています。

 

これら症状は残念ながら、寄生したらフィラリアを駆除したら治るものではなく、後遺症として犬の体に残り続けます。

 

他方、猫のフィラリアでは主に呼吸系の障害が起きます。

寄生先の動物

実はフィラリアにも寄生先の好き嫌いが存在します。

 

フィラリアにとって居心地がよく寄生しやすいのは犬>猫>人で、特に犬が大好き(好適宿主)です。

 

他にも、アシカなどの海獣類を含む40種類以上の動物から検出されたことがあります。

 

猫のフィラリア症についての詳細を知りたい方はコチラの記事もお読みくださいね。

【獣医師監修】猫のフィラリア症予防キャンペーンを始めます!

フィラリアに感染するメカニズム

フィラリアに感染した動物の体内では、フィラリアのオスとメスが出会い子供(=ミクロフィラリア)を大量に作ります。

 

生まれたミクロフィラリアは血流に乗り全身の血管内を循環し続けます。

 

その状態となっているフィラリア感染動物を蚊が吸血すると、血と共に蚊の体内にミクロフィラリアが侵入します。

 

そしてフィラリア感染蚊が違う動物を吸血する際に、その動物に感染を起こします。

 

このように、動物→蚊→動物→蚊→…のようにフィラリアは循環しています。

フィラリアを予防するメカニズム

蚊を撲滅するのは不可能ですので、予防は基本的に動物側に対して行います。

 

さて動物の体内に侵入したフィラリアは、成長を続けながら大きな静脈を目指して移動します。

 

この際にL3→L5までライフステージが進行します。

※このL(Larva=幼虫)は、人で例えると幼児→小学生→中学生みたいな変化です

 

多くのフィラリア予防薬はこのL3かL4にのみ効くものですので、虫がL5以降に進化する前に叩かなくてはいけません。

 

よってフィラリアをL5以降に成長させずに死滅させるため、毎月1回の投薬が必要なのです。

 

ここから分かる通り、フィラリア「予防薬」とは呼ばれながらも実際は「駆虫薬」として作用しているのです。

フィラリア予防薬について

古くからフィラリアは犬を苦しめてきましたので、その分しっかり研究開発がされて予防薬が多数誕生しました。

従来の予防薬

比較的目にしやすいのは「カルドメック(ベーリンガー)」「イベルメック(住友ファーマ)」、「パナメクチン(明治)」でしょうか。

 

これらはイベルメクチンという有効成分が含まれた経口予防薬で、今でも多くの動物病院で重用されています。

 

ちなみにカルドメックが先発品で、それ以外がジェネリック品です。

 

その他に、ミルベマイシン系製剤やモキシデクチン系製剤など他の有効成分のものも多数あります。

 

ただし猫用で開発されている製品は非常に少なく、やや特殊な予防薬である「ミルベマックス(Elanco)」しかありません。

これからの予防薬

今はフィラリア予防薬にノミダニ予防成分を含めた複合剤が台頭してきています。

 

まず犬用複合剤ですが、日本では2015年製造開始の「ネクスガードスペクトラ(ベーリンガー)」に端を発します。

 

以降も「パノラミス(エランコ)」、「レボリューションプラス(ゾエティス)」、「クレデリオプラス(エランコ)」、「シンパリカトリオ(ゾエティス)」など順次開発製造されています。

 

猫用複合剤については犬と比べると選択肢が少なく、先のミルベマックスやレボリューションプラス、当院推奨の「ブロードライン(ベーリンガー、キャットコンボに順次移行中)」程度です。

どちらがお勧めか?

従来型の予防薬と複合型の予防薬のどちらがお勧めかというと、後者の複合型になります。

 

従来型ですと、ノミダニ予防効果が無いためにフロントラインプラスを始めとしたノミダニ予防薬と組み合わせる必要がありました。

 

しかしノミダニ予防薬自体はほとんどがノミとマダニにしか効果を発揮しません。

 

他方、近年製造販売されている複合剤では、ノミとマダニ以外にも多種多様な寄生虫にも効果を発揮します。

 

ちなみにこういった複合型の予防薬が出始めてから、本当にニキビダニ症やミミダニ症を見ることが無くなりました。

 

”ついで効き”が非常に奏功している印象ですね。

フィラリアの予防期間について

フィラリアは蚊が媒介する感染症ですので、蚊の出る時期に合わせての投薬が必要となります。

 

具体的には、蚊が活動する気温になった月の”翌月”から投与を開始し、蚊が休眠する気温に到達した月の”翌月”に終了します。

 

この1ヶ月のズレは、先述したように「フィラリア予防が実際には駆虫であること」が理由です。

 

日本は南北に細長く、また高低差も大きい国土であるため気温によるフィラリア予防期間には地域差があります。

 

ただし徐々に温暖化が進行し始めていますので、今後蚊の出現時期はどんどん長引くと想定すべきでしょう。

 

ちなみに当院(大阪府)ではレギュラーシーズンの予防を「4月中に投薬開始、12月中に投薬終了」としています。

 

これは根拠となる大阪府の平均気温から蚊の出現時期を逆算したものとなります。

年中予防という新たな考え方

ここ数年で、フィラリア予防薬の年中予防という概念が出始めています。

 

つまり通常は1年の内8〜9ヶ月程度を予防するのに対し、1年中ひたすら月1回で予防し続けるという予防法です。

 

年中予防が生まれたのにはいくつかの背景があります。

1つ目は温暖化がゆっくりと進行していることです。

平均気温の推移

気象庁HPより引用

図の通り、日本の平均気温はゆっくりと確実に上昇しています。

 

蚊の出現時期や活動量は気温に左右されるため、温暖化するほど長く活発に蚊は活動することになります。

 

よって例えば今まで10月、11月までで予防は大丈夫だった地域でも、12月、1月などに延長していく可能性があります。

 

2つ目の理由は冬場のノミダニ予防の必要性です。

 

ノミやマダニの活動性もやはり温度変化の影響を受けやすいですが、活動を停止する訳ではありません。

 

草むら/河川敷/アウトドア/ドッグラン、こういったノミダニに寄生されやすい環境に行きがちな子は冬場でもノミダニ予防が必要です。

 

もちろん、1〜3月はノミダニ予防だけするという方法でも構いません。

 

しかし人間は予防法が複雑になるとミスが起きやすくなるもの。

 

とにかくシンプルに月に1回予防し続けるというのは、予防し忘れを避ける意味でも効果があります。

 

3つ目の理由は冬場でも活動する蚊が日本に存在するからです。

 

皆さんご存知のヤブカ属(ヒトスジシマカなど)などの蚊は寒さに弱く、12月頃には休眠に入ります。

 

しかしイエカ属の蚊は寒さに強く、冬場でも暖かい小春日和では活動したりします。

 

また、冬場でもビルやマンションなど室温が保たれている環境では問題無く活動できることも特徴です。

 

ですので、「都市部や都市部近郊では冬でもイエカ属の蚊に要注意」と言えます。

 

当然イエカ属の蚊もフィラリアを媒介しますので、しっかりと予防をしていく必要があります。

 

以上3つの理由から当院でも年中予防をご提案させていただいており、実際に2〜3割のご家庭では年中予防に移行されています。

 

今後もおそらく、更に年中予防に移行するご家庭が増えていくと推測しています。

フィラリア予防に関する注意事項

最後にフィラリア予防に関する注意事項をおさらいしましょう。

シーズン予防前は必ず血液検査をする!

犬のフィラリア予防で最も大切な注意事項は、シーズン前に必ず血液検査をすることです。

 

体内にミクロフィラリアがいる状態で予防薬を投与すると、最悪犬が亡くなってしまう可能性があります。

 

ですので本当にフィラリアに感染していないか、シーズン投与前に検査しなければいけません。

 

飼い主側が前年にしっかり投与したと思っても、もし隠れて嘔吐していたら?ちゃんと飲み込んでいなかったら?

 

こういった予防抜けリスクを評価する意味でも必ず血液検査をしなくてはいけません。

 

ちなみに年中予防をしている場合でも、当院では念のために年に1回ミクロフィラリア検査のみを実施しています。

 

一方、猫のフィラリア予防では犬と違って血液を検査する意義はほとんどありません。

 

全国で画一された検査はありませんが、当院ではシーズン前の心音チェック(雑音があれば心エコーも)をさせていただいております。

予防し忘れを防ぐ

人がやることですので、どうしても飲み忘れが定期的に起きてしまいます。

 

そして残念ながら飲み忘れを100%防ぐ手段もありません。

 

しかし以下のようにすれば、なるべく予防し忘れを防ぐ対策は可能です。

 

  • 毎月1日など思い出しやすい日付に予防日を設定する
  • カレンダーにあらかじめ投薬予定日を赤丸する
  • スマホのカレンダーやリマインドアプリを利用する

個人輸入製品を利用しない

一部の予防薬に関しては、個人輸入代行サイトから購入することが可能です。

※一度の購入個数制限はありますが、その行為自体は合法です

 

これは物価が安い国から輸入代行し、日本での販売価格との利鞘を輸入代行業者が稼ぐことで成り立つ商売です。

 

しかしこの個人輸入代行利用は当院(というかおそらくほぼ全ての獣医師)は推奨しません。

 

以下にその理由を列挙します。

 

  • 当該国の卸業者が真っ当な製品管理をしているかが不明
  • 代行業者の手配中の製品保管がまともかが不明
  • 予防薬は各国ごとに成分のマイナーチェンジをしていることがあるため日本版と同一でない可能性がある
  • そもそも中身が当該製品である保証が無い
  • 万一投薬による事故があってもメーカー含め誰も責任を取らない(正規ルートでないため)

 

こういった動物へのリスクを多数抱えている割に、安くなるといっても動物病院処方と大きな金額差とは言えません。

 

メーカー側はこういった非正規ルートで流通した製品でトラブっても必ず知らんぷりになります。

※輸入代行自体は合法なものの、メーカーや代理店はこういった流通経路を問題視しています

最後に

フィラリア症は数十年前から犬を苦しめ、飼い主/関連業者/動物病院が一体となってようやく下火になったという歴史的事実があります。

 

それでも予防意識の薄い地域では、フィラリア症によって命を落とす犬が後を絶ちません。

 

今まで同様に、これからもしっかり予防をしていくということが、今とそしてこれから生まれてくる犬たちのために大切です。

 

正しい予防知識を付け、そしてしっかりと予防を徹底していきましょう。

 

また当院では、犬に隠れてほとんど知られていない猫のフィラリア症についても啓発し、予防を推奨しています。

 

今シーズンも引き続き、皆様に丁寧なフィラリア予防をご提案させていただきます。