院長の木村です。
本日は尿石症のお話です。
尿石症とは
尿石症とは、各種のミネラルが結晶として、膀胱や尿中などの尿路に存在している状態です。
石の種類は様々ありますが、一次の臨床現場で見る尿石症の9割以上が以下の2種類になります。
- ストルバイト(リン酸アンモニウムマグネシウム)尿石症
- シュウ酸カルシウム尿石症
ストルバイトは治療をすれば溶けるタイプ、シュウ酸カルシウムは一旦結晶化すると溶けないタイプで、その混合パターンも存在します。
放置していたらどうなるの?
尿石症をそのままにしておくと膀胱炎を起こしたり、更に悪化すると膀胱結石や腎結石や尿管結石を作ったりします。
また、結石が尿管や尿道に詰まった場合は急性腎不全を起こし、わずか半日〜1日で命に関わる状態に陥ることがあります。
出来てしまった石はどうやって取り除くの?
獣医療では、人医療でされているような体外や体内からの衝撃波による破砕は、残念ながら現実的ではありません。
動物の尿管などはあまりにも小さく細すぎるからです。
少なくとも一般的な診療施設では不可能です。
では、どうするか?
そう、ご想像の通り外科手術(オペ)になります。
膀胱切開・腎切開・腎盂切開・尿管切開・尿道切開(会陰尿道瘻)…ヒョェェって感じですよね。
※ちなみに当院では膀胱切開のみ対応可能で、以降の切開術が必要な場合は紹介となります。
なお、男の子に多い結石での尿道閉塞だけは、ペニスの先からカテーテルを入れて、水流で膀胱内に結石を逆流させて、一旦症状を落ち着かせるという手段があります。
しかし、これはあくまで根本解決ではない対症療法であり、苦痛を伴う割に100%の成功率ではない、尿道内を強く傷つける、カテーテルが結石を「噛んで」抜けなくなるなどデメリットもある手段です。
※こういう時は大抵緊急事態なので多少のデメリットがあっても鎮静剤などを打ちながらやるんですけどね…
検査、診断の仕方
尿石症が疑われる場合は、必要に応じた各種検査を実施します。
- 尿検査
- 超音波検査
- レントゲン検査
第1ステップでもあり最も重要な検査が尿検査になります。
この検査無くして正確な尿石症の診断はありえません。
尿検査によって、結晶の種類の特定、結晶が出来ていた期間の推測、菌感染の有無、炎症の程度など沢山の情報が得られます。
明らかに尿石である(画像検査で結石を確認している)のに尿検査で引っかかってこないケースもあるので、その場合は間隔を空けて繰り返し尿検査をすることもあります。
また、診断がついた後も定期的に検査をすることで治療が奏功しているかどうかも判定できます。
尿検査って結構シンプルな検査なのに、実は最も大切っていうのは興味深いですよね。
治療方法について
全ての結晶で、すでに結石として存在していて、溶けないもしくは溶けるのを待っていられない状態では先の記載通りに外科手術が適応になります。
※ただし、ストルバイト単独の発生では完全消失が狙えるので、大きな膀胱結石であっても症状が強くなくて様子見できる場合は内科治療に入ることがあります。
健康診断などでたまたま見つかった、または尿石による膀胱炎症状は起こしているが外科適応ではないパターンでは内科治療を開始します。
内科治療は大きく分けると以下の2つです。
- 抗生剤治療
- 尿石症用療法食の開始
ここに補助的に消炎鎮痛剤や尿改善サプリを使うこともあります。
抗生剤自体には残念ながら結石を溶かす作用はありません。
では、なぜ使うのかというと尿路に菌感染を起こすとストルバイト結晶が二次的にできることがあるからです。
逆に言うと菌感染を治療してあげるだけで結晶が消失することがあるんですね。
獣医によって治療の順序が違うことがありますが、菌感染がある場合は必ず抗生剤を使用します。
一時的な菌感染でできた結晶であれば尿石溶解フードを使用することなく治癒が可能です。
菌感染が認められないのに結晶が存在する場合とストルバイト結晶以外の場合では、抗生剤以外の治療が必要になります。
シュウ酸カルシウム結晶が存在する場合は、一度できたら溶かせないため、そもそも結晶をできにくくさせるための療法食を開始します。
もし、特殊なアンモニウム結晶が見つかった場合は、肝臓疾患が背景にあるかもしれないので全身の精査を行います。
食事療法について
ストルバイト結晶とシュウ酸カルシウム結晶では少しだけ食事療法をする目的が違います。
先に述べたようにストルバイトは溶かした上で綺麗な状態を維持することであり、シュウ酸カルシウムはできたものを尿として洗い流して次にできにくくさせるということになります。
尿石症は食事管理が最も重要な疾患の一つですので、各社療法食メーカーも力を入れて開発しており、ラインナップもバラエティ豊かです。
例えば当院では以下のものが処方可能です(※在庫として常時置いている訳ではありません)
- ロイヤルカナン社のユリナリーシリーズ
- ペットライン社のドクターズ尿石ケア
- ネスレ社のピュリナ下部尿路ケア
- ヒルズ社のs/d、c/dシリーズ
- ファルミナ社のベットライフ尿路ケア
尿石症以外に持病が有って、どの療法食を選べばいいか分からない場合はどうぞご相談ください。
「尿石をケアしつつカロリー控えめ」なんてものもありますよ。
さて、ここで重要な情報ですが、一度療法食を開始したら簡単には元のフードに戻せません。
体質的に尿石症を発症してしまった場合は、例え療法食で尿を綺麗な状態までもっていけても、そこでフードを戻すと再び結晶が出てくることがほとんどです。
また、その体質の強さによって、わずかなオヤツでもダメな子もいたり、多少のトッピングなら耐えられる子もいたりで動物毎に症状は千差万別です。
飼い主様に尿石症とお伝えしたらショックを受けられることが多いのですが、その理由は「一生1種類だけのフードで過ごすのか」と「この子は好きなおやつももう食べられないのか」という2点の思いです。
厳密な意味で言えば残念ながらその通りです。
膀胱炎を起こしたことのある方ならその辛さはご存知かと思いますが、結晶が尿中に存在することはいつでもその辛い膀胱炎が起きる状態とも言い換えられます。
獣医師としても膀胱炎を起こして病院に駆け込む姿が見えているのに、王道の治療をしないという選択肢は簡単には提案できません。
ただ、そうは言ってもなんとかしてあげたいというのが人の気持ちじゃないでしょうか。
そこで思い出してみましょう。尿石フードがバラエティ豊かなことを。
そう、飽きがこない・食事の楽しみのために種類を変えたいのならば、違うメーカーやシリーズの療法食から選べばいいのです。
※ドライフードの小袋サンプルやウェットフード缶・パウチなどもありますのでご活用ください。
また、おやつに関しては「尿石症専用トリーツ」を使っていただくことが最もおすすめです。
ロイヤルカナン社のユリナリーS/Oトリーツ、イナバ社の病院専用エネルギーちゅ〜るpHコントロールなどがあります。
できれば元々好きなおやつをあげたいという場合ですと、獣医師と相談の上、結晶がない尿が綺麗な状態で1種類だけおやつを少量ずつ与えてみましょう。
1週間程度時間を置いてから尿の再検査をして、アルカリ尿や結晶が出現したらアウト・綺麗な尿を保てているのならば経過観察というやり方もあります。
※これをする場合は必ず事前にかかりつけの獣医の了承を取ってください!獣医学的に正しい方法ではありません。
検査・治療はいつまで続くの?
尿石症はアレルギーと同じように体質と思ってください。
つまり、基本は食事療法と定期的な尿検査がずっと続きます。
尿が安定している状態でも3-6ヶ月毎の定期尿検査をおすすめします。
尿改善サプリでは、少なくとも動物病院用は継続で大丈夫です。
尿石症用療法食は、例えば心臓病、腎臓病や膵炎などがある場合は適応外となり、使用すると各種疾患が悪化する恐れもあります。
そういった併発疾患が出てきた場合は、どの疾患を優先して食事内容を選ぶべきかを症状や検査データなどで総合的に判断します。
場合によっては途中で尿石症用療法食を止めて定期検査だけしていきましょうという流れもあり得ます。
まとめ、終わりに
尿石症のほとんどはストルバイトとシュウ酸カルシウム結晶であり、菌感染がある場合は食事療法以外にも抗生剤治療が必要になることがあります。
体質的な尿石症であると判断したらなるべく療法食のみを継続して食べてもらい、なおかつ定期的に尿検査をして大丈夫なことを都度確認していきましょう。
どうしても療法食以外に与えたいものがある場合はかかりつけの獣医に相談してみてください。
その場合は膀胱炎の再発や尿路閉塞のリスクを覚悟しながらトライすることになりますのでご了解ください。
尿検査は簡単で、動物たちに負担をかけない検査ながら色々な情報が得られる大切な検査です。
当院では尿検査のみでの診察も可能ですので、来院ストレスが強い子の検査希望であれば、新鮮な(できれば半日以内)尿だけでもお持ちください。
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