院長の木村です。
犬や猫にもてんかん発作があることをご存知ですか?
すでに動物病院で説明を受けている方ならいざ知らず、初めててんかん発作を起こした動物を見た方は動揺してしまうと思います。
本記事ではおうちのわんちゃんや猫ちゃんがてんかん発作を起こしたその時に家族はどう対応すべきかを解説します。
焦らず適切な対応をすることで、てんかん発作が起こす動物の体へのダメージを最小限に抑えることが可能になります。
どうぞ最後までご覧ください。
てんかん発作を確認した時に家族が行うべき対応
- 2-3回深呼吸をしてまず自分が落ち着く
- 動物の周りにぶつかるような障害物があれば除ける
- 頭を地面に打ち付けるようであればそっと大判のタオルを頭付近に差し込む
- スマホで動画を撮る
- (できたら撮影しながら)症状を確認する:意識があるか、無目的に手足を動かしているか、失禁しているか
- 時計を確認して発作がどれくらいの時間続くかを把握する
- 5分以上発作が続いたら(※)病院にすぐ連絡するか、あれば発作止めの坐薬を投与する
※意識が消失したままけいれんが続く場合。意識は回復したように見える場合は観察を続ける、
※抱っこはしても大丈夫だが、動物が無意識で全力噛みをしてくる場合があるので口の可動範囲には手足を入れない。
てんかん発作の症状
てんかん発作の症状で代表的なものは、一般的に想像できる「白目を剥いて、手足をバタつかせ、失禁する」というものです。
それ以外にも意識はあるけど体に力が入らない『脱力』という症状が見られることもあります。
てんかん発作が起きる一般的な流れは以下の通りです。
前駆症状
数時間〜数日にかけて起きる発作前の異常行動です。
性格が変わったように感じる、攻撃的になる、不安なうろつきといった症状が見られることがあります。
前兆
けいれん直前に急激な恐怖行動、攻撃性、探索(うろつき)、体に触られることを嫌がるなどの異常行動が見られることがあります。
発作期
一般的にイメージされるてんかん発作の行動(手足のばたつき、失禁、意識消失)が起きます。
短いもので数十秒、長いもので3-4分続くことがあります。
発作が5分以上続く場合は『発作重積』と呼ばれる緊急症状となりますのでただちに動物病院に連絡を取ったり、あれば坐薬を肛門から投与する必要があります。
発作症状をお手持ちのスマホで動画を撮影すると、病院での診断・治療に有用な情報が得られます。
発作後期
発作が一旦収まった直後〜数時間、あるいは数日間続く異常行動が見られます。
具体的にはよろよろ動いたり、吠え続ける、異常な食欲・飲水、ものにぶつかるなどの行動です。
動物によっては一時的に目が見えなくなったり長時間の睡眠に入ったりすることもあります。
時間が経過するにつれ動物の意識ははっきりし始め、体の動きにも力が入ってきます。
そして最終的にはいつも通りの行動に戻ります。
発作が起きた時の注意事項
うかつに触らない
てんかん発作が起きた時は抱きかかえて体をさすりたくなるのが人の心情ですが、実際にそれをしても発作が短くなることはありません。
※そうした方がご自身が落ち着けそうな方には「抱っこしても大丈夫です」とお伝えすることはあります。
てんかん発作が起きている時には動物の意識は消失しており、不意に「全力で」手足を噛まれる危険性がありますので、抱っこするなどの接触は基本的に非推奨です。
※過去に発作を起こした時に誰彼構わず噛みにくるタイプの猫がいましたが、タオルや革手袋を付けて処置していました。
特に猫の発作後期では大運動会のように飛び回ることがありますが、この動きを止めるとあなたが大怪我をする可能性がありますので絶対に触らないでください。
周りの障害物を除ける
動物が発作を起こしている場合は、バタつきながらある程度の範囲を動き周ります。
周囲の障害物が目などに当たると動物がケガをしてしまいますのでなるべく遠くに除けておいてください。
大量の涎が出ている場合はタオルで拭いたり頭を下げる
発作時には大量に涎を流す場合があります。
発作中に涎を誤嚥して後ほど肺炎を起こすケースがありますので、異常に涎が出ている場合はタオル(厚めのもの)で口周りを拭くか体を支えて頭を少し下げる体勢にしてください。
ただし、口を拭う時は全力で噛まれる危険性がありますので十二分に注意しながら行ってください。
ちなみにリミッターが外れた噛み方は想像する2−3倍は痛く危険です。
大判のタオルを頭の下に敷く
頭を地面に打ち付けるような発作症状が起きている場合は大判のタオルを頭の下に差し込んでください。
タオルを敷く際にも噛まれないように注意してください。
坐薬の入れ方
ご家庭によっては動物病院から処方された坐薬をお持ちかもしれません。
坐薬はなるべく使い捨て手袋をつけた手で扱いながら指示されている1回量を投与してください。
もし手袋が用意できなかった場合は、投与後によく手を洗ってください。
さて坐薬の投与タイミングですが、それは動物の体が少し動かなくなった時です。
バタバタしている時には中々肛門に入れられませんからね。
規定量を肛門に挿入したら30秒程度指で塞いでいてください。
塞がないと腸や肛門の動きですぐ戻ってきてしまいますからね。
30秒ほどしたら座薬が体温で溶けて腸粘膜から吸収され始めます。
モノにもよりますが、坐薬がちゃんと効き始めるのは15分後と思っていてください。
坐薬は今の発作を抑える薬ではなく、持続的な脳興奮や次の発作をなるべく起きにくくさせるためのものです。
坐薬は15分間隔で最大2回まで投与可能です。
2回投与でも落ち着かない、再び発作が起きる場合はそれ以上自宅でできる処置はありません。
速やかにかかりつけ医または夜間病院に連絡を取ってください。
てんかん発作が一旦落ち着いた後にすべきこと
まず行動が正常に回復するまで様子の観察を続けてください。
発作が少し落ち着いた直後に再度発作が始まった場合は『発作重積』と判断して速やかに病院に連絡するか、あれば発作止めの坐薬を投与してください。
動物の体が熱っぽく感じたら部屋を涼しくしたり濡れたタオルを体にかけてください。
特にパグやフレンチブルドッグなどの短頭種は放熱が苦手ですので、体温上昇には注意してください。
そのままてんかん発作が治まったら手帳やカレンダーに発作が起きたこととどれくらい続いたかをメモしてください。
このメモは後日の診察時に必要になります。
初めて発作を起こした動物では、行動が正常に回復してから(十分に回復していなくても大丈夫ですが)動物病院を受診し血液検査を中心としたスクリーニング検査を受けてください。
見た目にはてんかん発作でも、実は内臓やホルモン異常から発作が起きている可能性があるからです。
実は他の病気が原因で発作が起きた場合は治療の方向性が変わりますからね。
行動が正常化してから2-3日は脳内の異常興奮は続くと言われています。
発作後数日は動物をびっくりさせたり大きな物音で刺激したりせず、動物がストレスフリーの生活を送れるように心がけてください。
最後に
てんかん発作が起きた時に大事なことはまずはご家族が落ち着くことです。
あなたがパニックになっていたら適切な対応はできません。
そしてよく観察してください。
その観察から得られた情報は、診断に役立ち今後の治療に生かされます。
てんかん発作が起きた動物を抱っこせず見ているのは心情的に辛いとは思いますが、あなたがその子にしてやれることは他に沢山あります。
怪我には十分注意しながら冷静に対応していきましょう。