院長の木村です。

 

本記事では、獣医師視点でのすすめしたいキャリーの形状についてお話しします。

 

キャリーケースと一口に言っても形状やデザインや素材など実は千差万別です。

もちろん、せっかくだから可愛いものをということで選んでいただくのもいいですが、獣医師の立場から見るとおすすめしたいものできないものがあります。


新しく動物を迎え入れてキャリーケースが必要な方、古くて新しいものに買い替えを検討している方はぜひ見てください。

 

結論

おすすめしたいキャリーケースの条件は以下になります。

 

  1. 動物を上部から取り出せる
  2. 素材が丈夫である
  3. 完全に閉めることができる
  4. 上半分が簡単に開けられる

 

まだ購入されていない、または近日でキャリーケースの買い替えを検討されている方は是非この条件を満たしたものを買ってください。

 

なぜキャリーケースにおすすめする、しないの差が出るのか

実はキャリーケースの種類によって病院での診察の質に差が出る場合があるからです。

 

どういうことか解説していきます。

 

一般的に多く使われているキャリーケースは横長でプラスチック製の出入り口が1〜2個タイプです。

 

1個しか出入り口がないタイプは小型犬や猫に出てもらうときに一番大変です。

大抵の子は自分からは出ようとしないので1個の出入り口に両手を突っ込んで引っ張り出すことになります。

 

自分から出ない怖がりの子に向かって外から手が伸びてきたらどうなるでしょうか?

もちろん後退りしますよね。

 

その状態で出そうとすると動物は爪を立て、手足を踏ん張りどうにか出されまいとします。

 

シャイな子はすでにこの時点で(飼い主様へを含め)威嚇咬みに来る場合もあります。

 

また、何とか出そうとして無理しすぎるとキャリーの敷布などに立てていた爪が折れる可能性もあります。

 

2個出入り口タイプも、これより随分マシですが似たような感じです。

 

片方から追い立てて出そうとしても、出るまでには至りません。

逆サイドのぎりぎりで結局同じように踏ん張ります。

 

これらに共通することに、出す時に動物の様子を観察できないという欠点があります。

 

手を入れたらこちら側の視界が塞がるのでブラインドで出さなければいけないというのは正直かなりやり辛いです。

爪が引っかかっているかも確認できませんし、咬みにきていないかどうかも見えません。

 

キャリーケースを買った際には自宅で出し入れを試されると思いますが、病院で出し入れをするのとは全く別物と思ってください。

 

最難関の出入り口1個タイプでは、飼い主様が出せなくて結局病院スタッフが、時には咬まれながら引っ張り出すことになるほうが多いくらいです。

 

そしてここでまごまご時間をかけて引っ張り合いすると動物たちの緊張感が一気に高まってしまいます。

緊張感が高まったらどうなるのか

診察でできる検査・治療の範囲が狭まります

 

少し小型犬や猫の話題からは逸れますが、例えば私は体調良好な柴犬の子にはほとんど体温測定をしません。

なぜなら、体温測定だけで我慢の限界やパニックになる子が他の犬種と比べると非常に多く、次の検査や処置ができなくなるからです。

 

これはやや極端な例ではありますが本質は同じです。

怖がりさんや心臓病・呼吸器病を持っている小型犬や、シャイな猫にキャリーから出す行為で消耗させると次の検査ができなくなる恐れがあります

 

病院としては今回治療したらお終いではなく、次の検診や別件で受診した時の治療も想定して動いています。

限界でパニクりかけているような子にストレスをかけて検査をすると、次の受診時はケージを診察台に置くだけで唸ったり威嚇が始まったりするようになります。

 

こうなってしまってはお手上げに近いです。

これはある種のトラウマなので、以降にその記憶が消えることはありません。

 

検査を始める前に抑えながら口輪をつけたり、強く保定した状態でとりあえず検査無しでなんとか点滴だけしたり。

動物にとっての十分な検査や治療を受けられないというデメリットが増えてしまいます。

 

心臓や呼吸器病の子では、出すだけで激しく興奮させていたら病院に来るだけで病気が悪化することさえあります。

最もおすすめできるキャリーケース

以下の画像のケースが最もおすすめです。

 

 

これは後ろ側は開きませんが、上の扉から「動物が見えない方向から」のアプローチが可能です。

また、脇にあるロックを解除することでキャリーの上半分を簡単に外すこともできます。

2つの扉はしっかりとロックされていますが、全面のものは両側にあるつまみ(2枚目が分かりやすいです)で音もなく簡単に外せます。

体が大きめの子も出やすいですね。

 

おすすめできないキャリーケース

先の画像のものと見た目は似ていますが、脇のロック部分が金物ネジになっているものは推奨しません。

ドライバーを使わなければ解体できないキャリーは外せないのと同じです。

また扉つまみが片方のみのものは、開けても開口面積が狭いこととキャリー上半分を外した際に元に戻すのに皆さん苦労されているのでやはりおすすめしません。

 

他のタイプでは、合成繊維製や布製にありがちな上部取り出し型もおすすめしません。

それらはジッパーで両側をしめますが、最後の部分がマジックテープ(モノによっては申し訳程度のドットボタン)で構成されています。

 

ジッパーはまだいいですが、マジックテープやドットボタンでは動物が頭でぐりぐりしたら力づくで簡単に開けてしまえます。

実際にこのタイプで、病院から帰宅途中に猫がいつの間にかキャリーからいなくなっていた経験があります。

※幸いその子は歩行者に保護してもらえましたが最悪交通事故に遭い兼ねません

 

「ウチの子は大人しいから大丈夫」とタカを括っているといざ動物がパニックになった時に対処ができなくなります。

また、耐久性にも難があります。

がつがつ動いたりキャリー内を引っ掻いたりする子では気付いたらどこかに穴が空いていることもあります。

ジッパーを縫い付けている部分が破れかかっているのも経験します。意味ないですね。

全ての動物でこのタイプを使うのは避けましょう。

 

その他のタイプのキャリーケース

UFO型(正式な名称ではありません)

私は1例しか経験がありませんが、三角錐にも見える不思議な形のケースがあります。

開口部は1ヶ所で、横長1ヶ所タイプよりは若干だけマシな程度で扱いにくいタイプになります。

おすすめしません。

リュック型

実は意外と大丈夫です。

基本は猫ちゃん用で販売されていると思います。

ハード目のケースで中の素材もつるつるしており、爪を立てにくい構造になっています。

そして、上からアプローチしやすいので合格ラインの出し易さです。

宇宙船みたいな窓が付いている商品も多く可愛らしいのもポイントが高いですね。

合成繊維の横長型

これもモノによってはOKです。

つまり、開口部の他に「全周にジッパーがついていて簡単に全開にできるもの」が多いからです。

ただ、こちらもやや耐久性に難がある印象を持っています。

上蓋型

出入り口が上1ヶ所の全面蓋のハードケースです。

これはOKです。

安全性や取り回しも十分合格点です。

小さめの製品ですので、幼い動物や小柄な動物に向いているでしょう。

スリング型

おすすめしません。

スリング型はこういった形状のものです。

基本的にロック機能が無いので、パニック時に飛び出す可能性が配慮されていません。

猫ではそのまま逸走、犬では落下して骨折する危険があります。

見た目が可愛いので使われている方も多いですが、決しておすすめしません。

洗濯ネット

猫ちゃんを連れてくる飼い主様で割といらっしゃるパターンです。

病院としてはあまりおすすめできません。

少なくとも洗濯ネット来院で何かの事故が起きた経験はありませんが、例えば風邪を引いた時などにくしゃみの飛沫がもろに待合室に飛ぶので周囲に影響がでます。

万一ノミがいた場合は周囲に逃げ出すので、病院の汚染防止という観点からなるべく避けていただきたいです。

洗濯ネットに入れて更にハードケースに入れるということであれば非常におすすめです。

ちなみに、最初から病院でほぼ手をつけられないことがわかってるファイター猫さんでは、ネットの目は「荒め」をおすすめします。

荒めであればネットから出さずにその隙間から点滴やワクチンなどを注射することが可能です。

終わりに

キャリーケースは形状や素材、機能性など千差万別です。

今回ご紹介したケース以外のものもたくさんあるでしょう。

もし、何を買えばいいのか悩まれたら、

 

  • 動物を上部から取り出せる
  • 素材が丈夫である
  • 完全に閉めることができる
  • 上半分が簡単に開けられる

 

この条件に当てはまるかどうかで選んでみてはいかがでしょうか。

 

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