院長の木村です。
本記事では猫の慢性腎臓病(慢性腎不全)について取り上げます。
慢性腎臓病とはなんなのか、治るのか、その治療法は、などなるべく分かりやすく解説しておりますのでどうぞ最後までご覧ください。
最近のトピック
7月中旬に、東大の宮崎教授が研究している猫の腎臓病治療薬の研究に2週間で1億4千万円の寄付が集まったことがニュースを賑わせましたね。
これは、皆様が猫の腎臓病に対して強い関心を持って、動物と共生する社会全体の課題として受け止められていることの表れだと感じます。
下の画像は、犬と猫の飼育頭数の推移です。(ペットフード協会様「令和2年 全国犬猫飼育実態調査」より抜粋)
猫の飼育頭数は2017年に犬と逆転し、以降もその水準を保っています。
猫ちゃんたちの高い人気が伺えますね。
そして猫の慢性腎臓病に関係する人も増えるので治すのが難しい病気としてかなり認知されているものと考えられます。
慢性腎臓病って治るの?
現在の獣医療(2021.9執筆)では根治は残念ながらほぼ不可能です。
だからこそ、先の東大の研究が注目されている訳ですね。
日本では岩手大学様が根治を目指して猫の腎移植にチャレンジされているようです。
(下記は岩手大学様HPより抜粋)
通常、我々のような一次動物病院で行う慢性腎臓病の治療は根治を目指すものではありません。
点滴、療法食、サプリ、腎臓薬、これらは全て進行を遅らせるあるいはQOLを保つことを目的としています。
そもそも慢性腎臓病ってなんなの?
実はコレ、非常に大雑把な病名です。
ゆっくり長い日数かけて経過している病態が慢性腎臓病という呼び方をされているだけです。
慢性腎臓病になる原因は急性腎不全、じわじわと機能低下、遺伝性疾患など様々です。
原因が様々なので、発症年齢も中高齢じゃないと絶対起きない訳ではありません。
例えば若齢から尿石症で尿道が詰まり急性腎不全を繰り返すような子がいたならば、2歳でも3歳でも容赦なく慢性腎臓病になります。
大部分の子は中高齢に入ってから発症するんですけどね。
「若いから大丈夫とは限らない」と思っていただければ結構です。
慢性腎臓病にならないためには
とは言ったものの非常に難しい内容です。
あえて言うのであれば、日頃からなるべく飲水を促すような工夫をしてあげることかと思います。
猫ちゃんの飲水量は元々結構少ないです。
これは猫の祖先と言われているリビアヤマネコが砂漠の生き物だったことが影響していると考えています。
飲水量が少なく脱水傾向にあると、老廃物を除去する過程で腎臓への負荷が強まります。
肥満猫がいずれ慢性関節炎を起こすように、長らく腎臓に負荷がかかった状態では慢性腎臓病へと移行しやすくなります。
猫の飲水を促すためには色々試して、どういう形であれば積極的に飲んでくれるのかを探っていきましょう。
例えば器の形状や水の温度、水の流れの有無(流れるお水は割と好評な印象です)、味付け、専用サプリなど。
※そういえば昔、近くの温泉の水を小さい頃から好んで飲んでいるという猫ちゃんがいました。
当時20歳近くなのに毛がフサフサで腎数値も全く正常で驚いた記憶があります。
後は安心して水を飲めるという環境も大事です。
多頭飼育で仲が悪い子と同じ空間にいる場合は何をするにも警戒して、すぐ止めちゃいますからね。
時々、手が空いた時にはスポイトで水を飲ませるようにしているという飼い主様に出会います。
それはとても良いことだと思います。
中々労力のかかるやり方ではありますが、もしできるようならぜひチャレンジするといいでしょう。
あとはフードをふやかしたり、ウェットフードで強制的に水分を取らせるのも一つの作戦です。
ただし、ドライと比べると食べカスが歯に残りやすく歯周病に発展しやすいので、デンタルケアと組み合わせると良いでしょう。
腎臓病の進行を最大限遅らせるには
とにかく定期的な健康診断
慢性腎臓病は早期発見早期治療開始が非常に大切です。
今は、慢性腎臓病の重症度分類にも使われるSDMAが指標として主流になってきました。
(※当院が今年冬に予定している猫用健康診断キャンペーンで測定可能です)
これは通常測定するBUN、Cre(人の健診でも出てきますね!)より早期に異常を検出できるマーカーです。
BUN、Cre自体は腎機能の75%が失われてから上昇すると言われています。
商業化されて非常に使いやすい項目なのですが、いかんせん検出時期が遅いです。
逆にSDMAは最近グッと検査の重要性が認知されましたが、それでも通常期間に測定するには費用が高めです。
今は併用して両項目の良いとこ取りをする時期ですね。
それ以外に、尿検査もとても大切です。
尿蛋白が出ていると腎臓を傷つけ続けるので早めに検出したいですし、何より尿比重(濃さ)が割と動きが早くて◎です。
BUN、Creが上がっていなくても尿比重が下がっている場合もありますので、そういう子の腎臓は要注意です。
尿蛋白と近しい存在ですが血圧測定も大事です。
ただし、専用の血圧計が無いと精度がかなり悪くなるのと性格上測定できない子がいるので万人向けの検査ではありません。
(当院にはまだありません…早く買いたい)
腎臓病用療法食
慢性腎臓病にとって療法食はもはや薬のようなものです。
サプリよりも薬よりも点滴よりも、まずは腎臓病用療法食に変えるべきです。
フードを療法食に変えただけで腎数値が下がったり尿の出方が変わったりします。
特に最近では、ロイヤルカナン様の「早期腎臓サポート」やネスレ(ピュリナ)様の「NF | 腎臓ケア 初期ステージ対応(ドライ・ウェット)」といった早期ステージ狙いの療法食が出始めています。
こういったステージに合わせたフードを活用いただくのがとてもおすすめです。
少し毛色が違いますがネスレ様の「ハイドラケア|経口補水液」も飲める子にはぜひおすすめです。
※興味がある方は病院にお問い合わせください
サプリ
これも療法食同様に各メーカーが競って開発しているジャンルです。
個人的な使い勝手でいうとまず「プロネフラ」、次に「カリナール」シリーズです。
「アゾディル」も効く子にはグッと効く良いサプリですがちょっと高めなのでまだ入荷はしていません。
そして血中リン濃度の上昇が出てきた時点でリン吸着剤を追加します。
シニアの猫ちゃんの多くは関節炎も起こしているので「アンチノール」を腎臓+関節狙いで使うのもいいでしょう。
サプリで主に使用しているのはこんな感じでしょうか。
動物病院によってメイン使用のサプリには違いがあると思います。
内服薬
現状ではまず「ラプロス」一択です。
血圧上昇や尿蛋白が出現した場合は「ベナゼハート」を使用します。
似たような薬で「セミントラ」がありますが、コロナ禍で供給がストップしていたのが最近になってやっと安定供給でき始めたみたいです。
液体のほうが飲ませやすい子であれば後者ですね。
ただ、セミントラもそうですが海外から入荷するタイプの薬は情勢によりまた供給が途絶えるリスクを孕んでいます。
皮下点滴
ここにきて、ようやく点滴の話です。
私の考えとしては、腎臓病治療=点滴ではありません。
どちらかというと一時的もしくは病気後半戦で使用する治療法です。
調子が悪くて病院に来た慢性腎臓病の猫ちゃんはたいがい嘔吐・脱水・食欲不振とまさに点滴の出番という状態が多いです。
そこからしばらくは通院いただき、まずは体調を持ち上げるために点滴し続けます。
ただ、今までの治療歴が無い子の場合は必ず1回は徐々に点滴間隔を空けて離脱するように計画します。
療法食やサプリ、薬で日常生活が送れたらそれに越したことはありません。
点滴自体はとても良い治療法ですが、かといって不必要な点滴は体にとっては毒ですからね。
(“効果が無い”ではありません、毒になります)
すでに前述の治療も併用していて、それでも点滴を離脱する前に体調が落ちてしまうことがわかってしまった。
そう言った場合は、残念ながら点滴込みでしか生きられない体の状態になっているので基本的にはずっと通院いただきます。
(自宅点滴希望もお断りすることはありませんが、種々の理由からあまりお勧めしません)
慢性腎臓病が急速に悪化したような場合は入院管理での静脈点滴もご相談します。
脱水して悪い状態が長く続くと腎臓は急速に機能を落としていきます。
なるべく進行を遅らせる、長持ちさせるためには適切な間隔、適切な量、適切な内容の点滴が必要になります。
ちなみに点滴は入れたら入れた分だけいいというものではありません。
こちらも例えば1週間の水分をガツンと入れたいのは山々ですが、そうしたら心臓がパンクすることは確実です。
もし、今点滴を受けている猫ちゃんで点滴した夜などに呼吸が早くなる症状が出ていたら量を再相談したほうがいいでしょう。
洋猫さんは隠れ心臓病の子が多いのでより慎重に点滴量を見極める必要があります。
量とか内容とか混ぜる薬品とかを書き出したらキリが無いので一旦ここで止めます。
点滴オタクみたいなところがあるので笑
最後に
猫の慢性腎臓病は非常に多い病気です。
個人的な意見としては、猫の腎臓は15歳も16歳も生きていることを想定して作られていないと思っています。
腎臓だけでいうと5−8歳くらいの感覚ですね。
今の時代、飼い主様の健康意識も高まりとともに猫の平均寿命も伸びてある意味腎臓病がどんどん身近になってきています。
「腎臓病が判明したら色々と考えなきゃね」ではなく、健康(に見えるよう)な時期から腎臓病について理解を深めることをおすすめします。
早期発見と早期治療開始ができれば、それはとても幸せなことですからね。
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