※2021.12.3追記あり

院長の木村です。

 

先日久しぶりに『皮下膿瘍』の猫ちゃんが来院されたので、オーナー様の許可をいただき治療風景の動画を撮影しました。

 

動画と合わせて皮下膿瘍について解説していきます。

皮下膿瘍(ヒカーノウヨウ)とは

皮下膿瘍とは、「皮膚の下に膿が溜まった」病気です

 

皮膚の下(内部)は本来無菌状態ですが、そこに細菌が感染して膿が溜まっていくと水風船のようなコブができます。

 

皮下膿瘍は主に猫同士のケンカによって発生します

 

猫の爪や犬歯が喧嘩相手の皮膚に刺さった場合、それらの先が鋭いため雑菌を皮下に残して表面の傷のみが速やかに塞がります。

 

そうすると雑菌によって内部で生まれた膿の行きどころが無くなり、その場所で溜まり続けていきます。

 

膿が溜まった状態では強い炎症が続き痛みが生まれますので、切開して膿を排液しなければいけません。

皮下膿瘍の治療風景

実際の治療風景の動画がこちらになります。

 

血や針が苦手な方は視聴をお控えください

※動画の音声は消しています

※安全な範囲で最大限の鎮痛・鎮静をかけた上で処置しています

 

消毒した後、コブに対して針である程度の切開を加えることで膿を絞り出せるようになります。

 

動画にはありませんが、この後に生理食塩水で内部を洗浄して抗生物質を投与しています。

 

皮下膿瘍の処置では私は基本的に鎮静で対応しますが、状況や患者の健康状態によっては麻酔も考えます。

 

炎症の元である菌を一気に洗い流すことで、一気に痛みは落ち着いていき快方に向かいます。

施術後経過

本件の患者猫さんは当日から食欲が回復しており、現在通院にて経過観察中です。

 

施術前の時点ですでに皮膚の一部が壊死し始めていたので、どこかのタイミングで一旦その皮膚が脱落して順に綺麗な新しい皮膚が再生していく見込みです。

追記)再診にて予想通りに壊死していた皮膚が脱落して再生が始まりつつありました。あとは抗生剤を効かせつつ塞がるのを待つだけです。

消毒処置前

消毒処置前

消毒処置後

消毒処置後

施術せずにそのままにしておくとどうなるのか

若く体力があり、持病を持っていない子であれば自分で治すことが可能です。

 

膿が溜まり続けると皮膚が伸びる限界を迎えて壊死します。

 

そして皮膚が脱落して穴が開きそこから大部分の膿が流れ出れば、最後に残った多少の細菌は自分の免疫力で退治しきることができます。

 

ただし、獣医師としては勝手に治るまで待つのはあまりおすすめできません。

 

なぜなら、膿による炎症や発熱でのダルさ、痛みによってほとんどの子が食欲が落ちるか全く無くなります。

 

基礎体力で体調を保てたとしてもしばらくの間は苦痛が続きます。

 

まして持病を抱えていたり基礎体力の無いシニアの猫では「体調の悪化とともに他の病気がぶり返して皮下膿瘍が回復できなくなり更に悪化する」といった病気の悪循環にハマっていく危険性があります。

 

また感染した細菌の種類にもよりますが、菌毒素が体全体に回って命に関わるレベルの重症化を招く恐れもあります。

 

皮下膿瘍を疑うコブに気づいたら速やかに動物病院を受診し治療を受けましょう。

 

ちなみに皮下膿瘍を切開せずに抗生物質だけ投与してもあまり改善はしません

 

結局自然に穴が開くか切開を再検討することになりますので、病院を受診するのであれば最初から切開を選ぶことをおすすめします。

補足情報

・細菌感染が皮下ではなく筋肉内で起こった場合は膿溜まりができませんので、切開はせず抗生物質や消炎鎮痛剤で地道に治すことになります。

 

・本記事は猫の皮下膿瘍について解説しましたが、犬でも起きることがあります。

特に猫と同居しているわんちゃんが猫からケンカ傷を負った場合は同様の処置が必要になりますので注意しましょう。