院長の木村です。

 

6月も半ばに差し掛かり、例年通り皮膚トラブルによる受診動物が増えてきました。

 

耳、脇、指、お腹、お尻…痒くなる部位はその子によって様々です。

 

本記事ではそんな皮膚炎を起こしている犬がニキビダニ症に感染していないか調べる方法とその治療法について解説します。

 

また、当院でお勧めしているフィラリア予防薬であるネクスガードスペクトラ

 

その有効性について、ニキビダニ症という観点からも見ていきましょう!

結論

  • ニキビダニ症は皮膚に住み着いているダニが増殖して起きる皮膚病
  • 診断には苦痛を伴う検査が必要
  • 予防薬を選べば、その検査を受ける必要なく発症を抑えられる

ニキビダニ症

皮膚の毛穴に住み着く、目に見えないレベルの小さなダニの仲間です。

 

実はニキビダニそのものは健康な動物の皮膚にも少数常在しているため、殊更感染を怖がる意味はありません。

 

しかし何らかの理由でタガが外れると増殖し、一気に悪さを起こし始めます。

 

ニキビダニ症による皮膚炎はわずかに脱毛する程度から全身ボロボロになる程度まで症状の重さが異なります。

 

いずれにせよ痒みを起こすためにしっかりとした診断、そして治療が必要である皮膚病の一種です。

 

ちなみにニキビダニは「アカラス」とか「デモデックス」などとも呼ばれたりします。

ニキビダニ症の診断方法

基本的には、ニキビダニが潜んでそうな炎症部位を狙って掻爬(そうは)試験をします。

 

しかしこの検査が問題で、毛穴から虫を回収するためにヒリついたり痛痒くなっている皮膚をギュッとしぼりながら表面をメスなどで掻き取ります。

 

「掻き取る強さは血が出るまで」なんてことも言われたりします。

 

この検査を怪しいところに何ヶ所にもわたって行います。

 

当然犬はめちゃくちゃ嫌がりますし飼い主様の心理的にも負担となる、獣医側からしてもやりたくない検査の一つです。

 

また私は以前、皮膚の専門病院に研修に行かせていただいたことがありますが、その際に掻破試験で診断できなかった犬を見ています。

 

その子は検査しまくっても原因不明が続き、最終的に皮膚生検(皮膚をくり抜いて病理検査)で診断できたそうです。

 

これはかなりレアケースではありますが、油断のならない皮膚病であることはご理解いただけたかと思います。

なぜニキビダニ症が起きるのか

なぜ常在生物であるニキビダニで皮膚病が起きるのでしょうか?

 

その原因は宿主(犬)側にあると言われています。

 

犬が何らかの別の病気で皮膚のコンディションを落としたり免疫力が下がったりすると、これ幸いにニキビダニが増殖し始めます。

 

このことから、ニキビダニ症を診断した時点で基礎疾患探しをすることが必須となります。

 

シニア動物でニキビダニ症を見たら、ホルモン病や腫瘍探しを始めるくらいです。

ニキビダニ症の治療

ニキビダニ症と診断が付いたら治療が可能です。

 

元々は治療には主にイベルメクチンやドラメクチンと呼ばれる注射剤や飲み薬を使用していました。

 

しかし副作用を警戒するため低用量から開始するため、治療が長期化するデメリットがありました。

 

近年ではネクスガードスペクトラを始め、イソオキサゾリン系の薬剤が製造されるようになりました。

 

これらがニキビダニによく効いてくれるので、前述の薬に取って変わって治療の主軸となっています。

最近のニキビダニ症

実はここ5〜6年はめっきりニキビダニ症を見る機会が減りました。

 

これはニキビダニが絶滅したからではありません。

 

私は約7年前に発売開始されたネクスガードスペクトラの貢献が大きいと見ています。

 

ネクスガードスペクトラはイソオキサゾリン系薬剤の先駆けとして製造・販売開始されたフィラリア予防薬です。

 

以降にも同様の予防薬は1年に1種類ペースで新発売されていますが、ネクスガードスペクトラの牙城を崩すには至っていません。

 

※当院ではフィラリア予防薬の中で、最も広い予防効果(ノミ・ダニ以外にも)があるとして第一にご提案させていただいています。

 

現在、ネクスガードスペクトラを常用している犬は非常に多いので、結果的にニキビダニ症が少なくなった可能性があります。

 

私自身も非常に優れた薬剤と考えているので熱心にお勧めしており、当院の予防薬処方数のおよそ7割程度をネクスガードスペクトラが占めています

なぜネクスガードスペクトラが良いのか

話を皮膚の病気に戻します。

 

通常、皮膚病の診断手順としてはまず外部寄生虫や感染症を除外します。

 

つまり本来であれば、皮膚病を起こした犬はみんな例の掻破試験を受けるべきなのです。

 

ただしネクスガードスペクトラを使用している場合は、すでに除外済みとして検査をスキップできます

 

だってすでにこの薬で治療している状態ですから、あえて探りにいく必要がありませんよね。

 

もちろん他の検査(テープ検査、アレルギー検査、抜毛検査など)は必要です。

 

しかし動物の体にも人の心にも苦痛な検査をスキップできるのは非常に大きなメリットです。

 

また先のレアケースも然りですが、掻破試験ではニキビダニを100%検出できる訳ではありません。

 

そういう意味でもネクスガードスペクトラの投与は除外検査としても優れています。

高齢犬であるほど使うべき

ニキビダニ症は若齢性の散発型も起きますが、多くの犬では中高齢に入ってから発症します。

 

他の病気などによって免疫力が低下する犬が増えるからです。

 

ニキビダニ症は基本的に要治療の皮膚病ですので、そもそも発症させないに越したことはありません。

 

よって発症しやすい高齢犬ほどネクスガードスペクトラを使用すべきと考えます。

最後に

いかがだったでしょうか。

 

ニキビダニ症ついてその診断方法や治療法について解説しました。

 

私が獣医として働き始めた時にはまだイソオキサゾリン系薬剤が販売されておらず、治療が大変だった思い出があります。

 

しかし今では優れた薬剤がどの子でも使える環境にあります。

 

ぜひ獣医学そして薬学の進歩の恩恵を、大切なわんちゃんに受けさせてあげてくださいね。

 

なお、ネクスガードスペクトラを始め多くの薬剤の添付文書には「ニキビダニ治療」の記載はありません。

 

これは農水省への認可を取っていないだけであって、効かないという意味ではありませんので注意してくださいね。