院長の木村です。

 

本記事では意外と見かける潜在精巣について、手術をすべきかどうかを含めて気になるポイントをまとめて解説していきます。

結論

潜在精巣はできる限り早いタイミングで手術して摘出するべきです

  • 潜在精巣は腫瘍化しやすく、子供に遺伝する可能性があるので繁殖NG
  • 潜在精巣は片側・両側と皮下・腹腔内のパターンがある
  • 手術をする際はどこに潜在精巣があるかをしっかり調べる必要がある
  • 転移がない限りは摘出すれば予後良好

潜在精巣とは?

わんちゃんには『潜在精巣(センザイセイソウ)』という病気があります。

「停留精巣(テイリュウセイソウ)」とか「陰睾(インコウ)」とも呼ばれます。

 

本来は陰嚢にあるべき精巣が降りてこなくて、お玉さんが1個だけだったり無かったりします。

潜在精巣の子は繁殖能力があるのか?

少なくとも1個の精巣が正常な状態にあれば繁殖自体は可能です。

 

ただし、潜在精巣は子に遺伝するリスクがあるため、潜在精巣を持つ動物は基本的に繁殖は推奨されていません

 

両方とも潜在精巣である動物では、造精能力がありませんので繁殖できません。

そのままにしておくと何が起きるのか?

潜在精巣は腫瘍化しやすいことで知られています。

 

潜在精巣は、正常な位置にある精巣と比べると9.2-13.6倍の腫瘍発生率であることが報告されています。

 

精巣の腫瘍はそこまで高確率に転移する訳ではありませんが、一旦転移してしまうと抗がん剤治療や放射線治療を必要とする辛い状態になります。

 

潜在精巣単独で亡くなったりQOLが落ちる訳ではありませんが、腫瘍化した場合にトラブルを起こすということですね。

 

トラブルの具体的な内容は腫瘍化した潜在精巣の位置や種類によって異なります。

 

重度貧血によるフラつき・びっこ・慢性疼痛・食欲不振や嘔吐・脱毛・前立腺肥大による排便障害などが分かりやすい症状です。

潜在精巣の診断・治療法

潜在精巣は残念ながら内科でなんとかするのは不可能ですので、外科手術一択になります。

 

潜在精巣自体の発見は簡単ですので、ご家族が気付くことがほとんどです。

 

場合によっては、ペットショップから購入した動物が「潜在精巣の疑い」と事前に告知されることもあります。

 

獣医の診断や検査が必要になってくるのは、「潜在精巣がどういうタイプか」判断する際です。

 

潜在精巣には、

 

①片側 or 両側

②皮下 or 腹腔内

 

のそれぞれのパターンがあり、特に②の皮下腹腔内かは手術方式が変わる重要な差です。

 

念入りな身体検査で潜在精巣のタイプを判断し、場合によってはエコーやCT(※検査可能な病院)も使って位置確認を進めていきます。

 

そして、位置関係が把握できたらそこを狙ってメスを入れていくという訳です。

 

潜在精巣の手術

①皮下での潜在精巣(皮下陰睾)

手術はまだ簡単なほうですね。

 

位置関係次第では切開ラインが2ヶ所になることもありますが、腹膜まで切ることなく摘出できます。

 

②腹腔内での潜在精巣(腹腔内陰睾)

こちらの手術は①と比べると難易度が上がります。

 

事前にエコーで精巣の位置が把握できていたら避妊手術くらいの切開ラインで速やかに摘出できます

 

しかし位置が把握できていない状態での出たとこ勝負オペでは、まず精巣を見つけるところから開始しなければいけません。

 

お腹の中を探索するために切開ラインも広がるし、内臓を必要以上に触ると体への負担も強くなりますし、良いことはありません。

 

トータルの麻酔時間も長引きますしね。

 

繰り返しになりますが、良い手術のためには精巣位置の特定が大事になります。

 

そういえば極まれに片側(正常な方)だけ摘出されて潜在精巣が残っている犬を診察することがあります。

 

しかし片側(しかも正常なほう)だけ摘出する意味はほぼありませんので、万一にでも片側だけの摘出を提案されたら断ってください。

※潜在精巣だけ摘出も意味があるとは思えませんので念のため

手術費用

去勢手術そのものの費用が地域や病院ごとでの差が大きく、一般論が申し上げにくいです。

 

ただ、少なくとも皮下〜腹腔内陰睾の重症度や数によって追加の費用が発生することがほとんどです。

 

去勢手術+追加費用(¥5,000~¥30,000)といったところでしょうか。

術後の経過

術後の経過としては、問題なく手術が終了した限りでは一般的な避妊手術とそう大差はありません。

 

手術の当日の安静や、抜糸までの軽い運動制限などごく普通の注意事項のみです。

 

「潜在精巣の手術後だから特別に何かしなくてはいけない」というものはありません。

手術したらもう大丈夫??

その時点での転移がない限りは大丈夫です。

外科的に摘出したらもう腫瘍化の心配はありません

 

もし摘出時点で潜在精巣が大きい(※普通は2回り以上は小さいです)場合は、念のために摘出精巣を病理検査に提出して転移の可能性が無いかを調べましょう。

 

残念ながら転移してしまっていたり、転移の疑いがある場合は定期的にエコーやレントゲン、血液検査などをしながら経過観察していくことになります。

 

転移がある場合は抗がん剤治療や放射線治療をやっていくかを飼い主様にご相談することになります。

まとめ

  • 潜在精巣は腫瘍化しやすく、子供に遺伝する可能性があるので繁殖NG
  • 潜在精巣は片側・両側と皮下・腹腔内のパターンがある
  • 手術をする際はどこに潜在精巣があるかをしっかり調べる必要がある
  • 転移がない限りは摘出すれば予後良好

 

潜在精巣は、獣医視点で言えば「残しておく必要のない爆弾」を抱えているようなものです。

 

治療は外科手術一択になりますので、健康で体力がある若い頃に摘出することをおすすめします。

 

もちろん、シニアに入っても術前検査をクリアできれば手術は可能です。

 

潜在精巣がなんだかんだ残ってしまっていて、どうするか悩んでいる方はどうぞ当院へお問い合わせください。

 

たかつきユア動物病院(木曜・日曜・祝日休診 9:30-12:30、16:00-19:00)

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