院長の木村です。
本記事では意外と多く潜んでいる、「猫の甲状腺機能亢進症」の症状や治療法について解説します。
食べているのに痩せてきた、元気なのに痩せてきた猫ちゃんは要注意ですよ!
甲状腺機能亢進症とは
甲状腺とは喉元にある新陳代謝を司るホルモンを分泌する組織で、人にも犬にも猫にも存在します。
また「亢進症」とは病気が高い度合いに進むという意味で、「甲状腺機能亢進症=甲状腺ホルモンの機能が異常に強まっている病気」と言えます。
つまり新陳代謝が過剰に促進されカロリーや体力を消耗するため、”痩せる”や”疲れやすい”といった症状に繋がる訳です。
人医療では甲状腺機能亢進症を「バセドウ病」と呼んだりしますが、皆様にはこちらの名前の方が馴染み深いかもしれません。
猫の甲状腺機能亢進症の概要
猫では高齢になってくると、この「甲状腺機能亢進症」患者がポツポツと出始めます。
若齢で起きないことも無いですが、基本的には7歳以上のシニア猫ちゃんの病気という理解で大丈夫です。
症状について
オーナー様の観察で分かる主な症状は以下の通りです。
・痩せてきた
・よく鳴くようになった
・年齢の割にはよく動き回る
・異常な食欲(※逆に減退することもあり)
・下腹部など舐めやすい部位の脱毛
・犬のようなパンティング
放っておくとどうなるのか
心臓や腎臓に負担がかかったり、どんどん痩せて消耗して元気が無くなっていったりします。
オーナー様からの見え方としては「みるみるうちに老けていく」という感じでしょうか。
最悪は異常な量のホルモンが致死的に働くこともあるので、しっかりと診断・治療すべき病気と言えます。
どれくらい病気が起きるのか
国内での明確なデータはありませんが、シニア猫の数%〜10%程度で起きていると見積もられています。
つまり多めに見積もれば10頭に1頭は罹患している計算となるので、比較的身近な病気であることが分かります。
それに、”痩せてきた”という症状は「年だから…」と見過ごされやすいので、もしかしたらもっと多いかもしれません。
猫の甲状腺機能亢進症の治療法
内科治療
この病気にはいくつかの治療法がありますが、最も実施されるのは内科治療です。
つまり”過剰に分泌されるホルモン”を抑える内服薬を、毎日2回(場合により1回)投与するということです。
基本的には内服は、適正な薬用量を見極めた上で長期あるいは生涯にわたる投与が必要となります。
外科治療
一部の外科に長けた動物病院では、問題となっている甲状腺を摘出する外科手術を選択できます。
ただし甲状腺を摘出後には、逆にホルモンを補充するための内服薬を投与し続けることになったりします。
また他にも周術期のリスクがあるため、第一選択となる治療法ではありません。
食事療法
なるべくホルモンの原材料となる”ヨウ素”を抑えたフード(療法食)を試せる場合があります。
軽度であればもしかするとフードのみで症状を管理できるかもしれません。
しかし正直に言えば、治療効果の遅さや管理の大変さから難易度が高く、積極的には推奨しづらい治療法です。
シニア猫が痩せてきたら…
まずはしっかりと動物病院で検査を受けましょう。
「痩せてきた」というのは甲状腺機能亢進症で特徴的な症状ではありますが、他の病気によって引き起こされることもあります。
ですので、甲状腺ホルモンの測定は当然として、腎数値・肝数値・血糖値などスクリーニングの血液検査も必要となります。
当院では夏と冬に甲状腺ホルモン測定を含め割安に実施できる猫健康診断キャンペーンを実施しておりますので、どうぞご利用ください。
また元々肥満だった猫ちゃんが痩せてきて”適性体型になった”場合も、実は喜んでいられません。
体重の絶対値も重要ですが、痩せてきたという傾向も大事にしてください。
肥大型心筋症から見つかることも
同じくシニア猫で発見されやすい肥大型心筋症(心臓病)から、念の為に実施したホルモン検査で本疾患が見つかる場合もあります。
ホルモンの病気は他の臓器にも影響を与えやすいため多彩な症状が出て、決め打ちで診断し辛いことも多いです。
よって症状から狙いを絞って検査するのではなく、定期的な検診の一環としてホルモン検査を実施すると良いでしょう。
ちなみに当院ではシニア猫ちゃんに対して最低1年に1回、持病がある場合は半年に1回の健診を受けていただくようご案内しております。
最後に
本記事ではなるべく分かりやすく「猫の甲状腺機能亢進症」について解説しました。
大事なポイントとしては「痩せてきているのを年齢のせいと思わず検査を受ける」ということです。
本疾患以外にも、糖尿病など別の病気で同じような症状を起こしていたりもします。
猫ちゃんが7歳を過ぎたら、ホルモン検査を含めた健診を受けさせてあげてくださいね。