院長の木村です。
今回は当院で行った歯石除去治療のレポートを2例ご紹介します。
歯肉炎や歯周病としては軽度or重度で比較してイメージしやすいかと思います。
普段は歯科に関して総合的な記事を書いておりますので、ご興味がある方は併せてお読みくださいね。
【獣医師監修】高齢動物の歯石除去は可能。リスク評価について解説!
【獣医師監修】歯周病治療について
結論
- 症例は歯石付着や歯周病レベルは軽度vs重度と対照的
- 2症例とも問題なく全身麻酔下で処置完了
- 重度であると歯石除去後の口腔環境維持に労力が必要
症例紹介
症例は犬2頭で、いずれも当院にて2022年7月に行った全身麻酔下の歯石除去の様子です。
症例①
トイプードル7歳9ヶ月 軽度歯石付着、一部歯肉炎あり 目立った既往症無し
歯石除去処置を単独で行いました。
症例②
トイプードル8歳3ヶ月 重度歯周病、既往:尿石症
膀胱結石の摘出と同時に歯石除去処置と抜歯を行いました。
写真
症例①
明らかな歯肉の退縮は無いものの、全体的に歯石が付着しています。
軽度の歯周ポケットはあったものの、問題なく歯石除去が完了しました。
症例②
重度の歯石付着に加え、奥歯では歯肉からの排膿も見られます。
また下の一部の歯は横倒しになっており、ほぼ取れかけています。
※同じ側面の写真を撮り忘れたので反対側の写真となります
取れかけている歯はほとんど力も要らず抜歯できるような状況でした。
歯根が耐えている歯に関しても、かなり深い歯周ポケットの形成や強い歯肉の退縮が認められました。
周術期の経過
症例①、②ともに全身麻酔中のバイタルも安定しており、また速やかに麻酔から覚醒できました。
施術時間としては症例①が麻酔導入から覚醒まで45分程度(処置時間として30分程度)、症例②は処置時間として45分程度必要でした。
考察
症例①では軽度の歯石付着段階で処置したため、歯肉の退縮はほとんど認められず抜歯も必要ありませんでした。
今後の家での定期的なデンタルケアにより、歯石の再付着予防を比較的簡単に行うことが可能です。
症例②では計8本の腐った歯を抜歯せざるを得ませんでした。
膀胱結石からの続き処置で麻酔時間が長くなっていたため、歯肉退縮が激しい臼歯については温存としました。
歯石や膿を除去できたことから口腔内の炎症・痛みは術後にかなり治まることが期待できます。
ただし歯根が露出している部分は食べカスがとても詰まりやすいため、この口腔環境を維持するには念入りなホームケアが必要です。
また深い歯周ポケットについては、なるべく痛んだ歯肉の掻破を行いポケット容積が少なくなるような処置を行いました。
しかし完全に正常化することは難しいと思われるため、ポケット内に詰まる食べカスを起点に再度歯周病が進行していく恐れがあります。
最後に
本記事では口腔環境として対照的な2例の歯石除去をご紹介しました。
しっかりとした歯石除去は全身麻酔下で行う必要があるため、動物を飼う側から見ると様々なハードルがあると思います。
麻酔の心配だったり、動物の持病だったり、費用面だったり…。
全身麻酔での処置は当然ながらリスク無しとはいきませんので、様々なメリットデメリットやリスクを考えて実施を判断する必要があります。
もし口の臭いや歯石などが気になるけど、歯石除去をするか悩まれている場合は一度ご相談ください。
当院でその子その子にあわせたリスク説明(やらない場合も含めて)や治療提案をさせていただきます。
※口腔環境は動物を見ないと判断できませんので、お電話によるお問い合わせではなく直接診察にご来院ください
ちなみに2019年の大規模研究で、「年1回の歯石除去を受けている犬は死亡リスクが18.3%低下する」と報告されています。
動物も人と同じように徐々に平均年齢が上がっています。
健康な老後のためにも、しっかりと歯の健康には気を付けていきたいですね。