院長の木村です。
前回は犬の糖尿病について記事をまとめましたが、今回は猫の糖尿病についてまとめます。
検索ワードを見ると、糖尿病の症状についてや糖尿病が治るのか、治療しなかったらどうなるのかが気になる人が多いようです。
現役獣医師が気になる部分を中心に猫の糖尿病について解説していきます。
犬の糖尿病に関してはこちらの記事をご覧ください。
【獣医師監修】犬の糖尿病について知っておきたい知識まとめ
結論
どの子も初期治療は必要ですが一部の糖尿猫では途中からインスリン治療を離脱できる子がいます。
糖尿病とは
猫の体では日々インスリンを始めとする血糖値を調節するホルモンがほどよく分泌され、正常な血糖値を保っています。
糖尿病は何かしらの理由によってそのインスリンの分泌が足りなくなって高血糖を起こす病気です。
インスリンは糖分を細胞内に入れるための鍵のような役割をします。
そのインスリンが足りなくなってしまうので全身が栄養失調に陥ってしまいます。
さらにいえば高血糖が続くとインスリンを分泌する膵臓がマヒしてさらにインスリンを分泌できなくなる悪循環に陥ります。
猫の糖尿病の症状と検査方法
猫の糖尿病の症状
- 多飲多尿
- 脱水
- 食べるのに体重が減っていく
- 進行すると元気消失や食欲不振
- 蹠行
血糖値が高い状態が続くと血管や膵臓がダメージを受け続けてしまいますので体はなんとか高血糖を治そうとします。
どうするかというと大量の尿とともに糖分を排出するわけですね。
そして出した分だけ喉が渇くのでいっぱい水を飲み始めます。
これが一番多い多飲多尿という症状です。
それでも失った水分を補給しきれない状態になると、脱水が進行します。
また、インスリン不足は食べてもエネルギーにならない状態ですので飢餓状態の脳はなんとか体に食べさそうとして多食傾向になります。
しかし結局、エネルギーである糖分は素通りしていくので細胞はどんどん痩せ体重が減少していきます。
この状態が続いて糖尿病が進行してしまうと徐々に元気が無くなったり、過剰な食欲が落ちて逆に食欲不振になっていきます。
ここまで症状が進行してしまうと緊急の治療が必要になります。
その他に猫に特徴的な糖尿病の症状として『蹠行(ショコウ)』があります。
これは後ろ足の神経麻痺から来るもので、足首をぺたぺた地面につけてスリ足のように歩く症状です。
仮に体調が落ちていなくても、この症状を見かけた時点ですぐに動物病院を受診する必要があります。
糖尿病の検査
やはり一番は血糖値を測定することです。
血糖値が300mg/dl台に入っていたらまず糖尿病と思ったほうがいいでしょう。
ただし、猫ちゃんは病院を受診するにあたりかなり緊張して、一時的に緊張性高血糖を起こします。
ですので目立った糖尿病の症状がなくて、血糖値が100mg/dl台後半〜200mg/dl台前半であれば時間をおいて再検査になります。
また、血糖値以外にもフルクトサミンや糖化アルブミンといった長期の糖尿病マーカーを測定することも有用です。
もし長期の糖尿病マーカーが上昇しているようであれば自宅でも高血糖が続いている=糖尿病という判断ができます。
それ以外にも尿糖をチェックすることも大事です。
「糖尿」病というくらいですからね。
尿糖は診断以外にも治療の効果判定としても利用できる優れた検査項目です。
糖尿病を疑って病院へ行く際は、できたら新鮮なおしっこを持っていければ◎ですね。
猫の糖尿病は治る??
犬と違い猫の糖尿病は治る(厳密には寛解する)ことがあります。
犬では糖尿病を診断した時にはすでにインスリンがもう分泌できない状況まで進行していることがほとんどです。
しかし、猫では糖中毒という状態に陥りやすいため、それを解除してあげることでインスリン分泌が十分回復する子がいます。
とはいえ、一旦高血糖を起こした子がインスリン治療から離脱できる割合はけして多くありません。
糖尿病を治療しなかったらどうなるか
糖尿病は先に述べたように、食べてもフードをエネルギーとして利用できなくて体が栄養失調に陥る病気です。
猫の体はどうしても糖分が利用できないとなると、緊急エネルギーとして蓄えていた脂肪を使い始めます。
その脂肪を使う過程でケトンというエネルギー源が生み出されるのですが、これが生体を酸性に向かわせ各種の異常が発生します。
ケトンが放出されて増えた状態をケトーシス、そこから進行して体が酸性に傾いた状態をケトアシドーシスと呼びます。
特にケトアシドーシスを発症してしまうと体の大事なイオンバランスが崩れるなどして一気に体調を落とし、最悪命を失います。
多飲多尿の症状程度でしばらく耐えられたとしても、糖尿病に気づいて何か手を打たない限りは症状が必ず進行し治療が必要になります。
猫の糖尿病の治療の仕方
病院に来る猫ちゃんの大半は、元気食欲の低下まで症状が進行しています。
その場合は通院や入院で点滴をしたり、初期のインスリン治療を施すなどの集中治療で一旦体を正常な状態まで戻します。
ある程度元気が出たら、日常使用するインスリンの種類、量、注射回数を決定するために血糖値曲線というものを作成します。
血糖値曲線作成とは、インスリン注射前後で1日5−6回血糖値を測定することで注射効果を判定する検査(要入院)のことです。
ここまでクリアできれば後は定期的に通院しながら良い血糖値を維持できるかをモニターしていきます。
ちなみに何をもって良い血糖値とするかは獣医師や国(!)によって違い、完全に正常化することを目標にしたり正常よりやや高めを目標にしたりします。
私は低血糖リスクをなるべく回避するために正常より高め(150-250mg/dl)を目標にします。
猫ちゃんでは時々、このモニター通院中にどんどん必要インスリン量が減っていってインスリン治療を離脱できる子が出てきます。
治療の鍵となるのはインスリンですが、それ以外にも糖尿病専用フードに切り替えたりサプリメントを利用して糖尿病管理を補助していく場合もあります。
本当はすべての糖尿病猫で専用フードに切り替えたいのですが、猫ちゃんは食べ物のこだわりが強い子がそれなりにいて切り替えを諦めることも多いです。
それよりは安定した量を食べてくれるフードの方が糖尿病管理にとって大切です。
猫の糖尿病に使うインスリンの種類
現在は猫の糖尿病治療に使うインスリンは「プロジンク」が主軸になっています。
注射は原則1日2回ですが、たまに1日1回で十分管理できる子もいます。
プロジンクが発売される前は「ランタス」や「レベミル」が主に使用されていましたが、今は主役の座を譲っています。
しかし、プロジンクが合わない猫ちゃん(効きづらい・効くけどすぐ効果が切れてしまう・効き方が不安定など)はランタスやレベミルへの切り替えを試します。
犬で主に使用される中間作用型インスリン(ヒューマリンNやノボリンN)は猫ちゃんでは効果が切れるのが早いため基本的には使用しません。
気をつけたい低血糖と応急処置
インスリン治療を開始すると、以下のような理由でインスリンが効きすぎて低血糖を起こすことがあります。
- 単純にインスリン量が多すぎた
- 糖中毒を脱出してインスリンがよく効くようになった
- インスリンボトルを新しいものに変えてよく効くようになった
- 他の病気を治療したらインスリンがよく効くようになった
- インスリンを打った後に思った通りにフードを食べてくれなかった
高血糖と違って低血糖は即座に命に関わりますので、様子見をしている時間はありません。
低血糖が怪しいと思ったら、とにかくフードやミルク、砂糖水やガムシロップやハチミツなど糖分が入っているものを歯茎に塗ってください。
もし低血糖ではなくて、仮に高血糖を助長させてしまってもそれですぐ命に関わることはありませんので遠慮なく処置してください。
糖分を歯茎に塗るだけでも多少血糖値が回復します。
そしてなるべく速やかに動物病院を受診してください。
ちなみに低血糖を疑う症状は以下の通りです。
- フラつき
- 目や顔がボーッとしている
- けいれん・引きつけを起こした
まとめ
猫の糖尿病は最終的に離脱できる可能性があるとはいえ、初期〜中期にかけては全ての糖尿猫で治療が必要になります。
多飲多尿や蹠行が見られた時点で、糖尿病の可能性を考えて速やかに病院を受診してください。
血液検査など必要な検査をしてもらえます。
進行具合によっては初期の入院管理が必要になることもありますので、異常に気づいた時点で検査したほうが結果的には楽な管理が可能です。
インスリンはプロジンクが一番良好な血糖管理が期待できますので第一選択薬として使われますが、合わない子には別のインスリンを選択します。
糖尿病の治療は細やかな通院やかかりつけ医との綿密な連携によって効果を発揮しますので、本腰を入れて治療に当たりましょう。
もし、多飲多尿など糖尿病が疑われる症状が出ている場合は当院へお問い合わせください。
たかつきユア動物病院(木曜・日曜・祝日休診 9:30-12:30、16:00-19:00)