院長の木村です。

 

本記事はわんちゃんの心臓病、特に発生率が高い「僧帽弁閉鎖不全症」についてまとめていきます。

 

かかりつけ医で心雑音を指摘された方はぜひ一度知識の整理としてお読みください。

 

どんな子に多いのか

大雑把に言ってしまうと、日本で飼われている小型犬はほとんどが好発(=病気を起こしやすい)犬種です。

下記はその好発犬種です。

 

  • チワワ
  • マルチーズ
  • シー・ズー
  • ヨークシャーテリア
  • トイ・プードル
  • ポメラニアン
  • ダックスフンド
  • ミニチュアシュナウザー
  • キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル

 

下の画像はペットフード協会様が出されている「令和2年 全国犬猫飼育実態調査」の抜粋です。

 

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上位を見てもほとんどが好発犬種として名前が上がる品種ばかりですね。

 

つまり、それだけ日本でわんちゃんを飼っているみなさまにはある意味身近な病気であると言えます。

僧帽弁閉鎖不全症の症状とは

一番警戒しなければいけない症状は「呼吸困難」です。

症状の特徴は以下のものがあります。

 

  • 胸が広がるような大きめの呼吸
  • 呼吸数が多い(1分間に40回以上)
  • 不自然に犬座りを続ける
  • 首を上に向けている

 

他には、動悸空咳(喉に何かが引っかかったような咳、最後にえずくこともあり)や運動不耐性があります。

 

ただし、この病気は中年齢以降で発症することが多いため、疲れやすかったりすぐバテるという症状は「年齢的な変化」と区別しづらい場合があります。

何歳から心臓に気を付ければいいか

僧帽弁閉鎖不全症は一般的には7歳以降に発症することが多いです。

しかし、心臓内部の異常は実はもっと早期に起き始めています。

 

もちろん、7歳未満だから安心という訳ではありません。

発症率が高くないだけであって5歳の子でも症状を起こす場合があります。

 

特にキャバリアの心臓には要注意です。

キャバリアを飼われている方は心臓のことについて必ず一度は耳にしたことがあると思います。

 

この犬種だけは特殊で、1歳でも心臓異常が起き始めることがあり他の犬種よりも早期に発症する傾向があります。

どう心臓に気を付ければいいか

まずは定期的な動物病院の受診を

健康診断でももちろん良いですし、もし皮膚病や肝数値の上昇など他の受診理由があればその際に毎回心臓の音を確認してもらいましょう。

 

7歳未満の若い健康な動物でも3−6ヶ月毎くらいには聴診すべきでしょう。

レントゲンや心臓エコーも必要

実は「聴診で雑音がない=心臓内部の異常がない」訳ではありません。

 

もちろん、心雑音があれば心臓含め何かの異常が隠れていることは予測できますが、雑音が聴取できなくても心臓異常が起きている場合もあります。

 

早期に異常を発見しようとするのであればやはり最低1年に1回は健康診断を受けることをお勧めします。

家での生活で気をつけること

実は生活する上で気をつけることというのはあまり多くありません。

 

僧帽弁閉鎖不全症は加齢による変化であり、また品種による差が知られていることから遺伝的な要素が絡んでいると疑われています。

 

ですので、残念ながら家で環境や食事に気をつけたら発症を防げるというものではありません。

 

強いていうのであれば、心雑音が指摘された子では過度な心拍数の変動を避けたほうが無難かもしれません。

高強度の運動、過度な緊張や興奮による頻拍は心臓に負荷をかけます。

 

もし、それらを避けられるような環境や運動習慣の工夫ができるのであればぜひしてあげてください。

 

性格上、極度の怖がりさんや神経質で物音などにすぐドキドキしてしまうようであれば精神安定系のサプリもいいかもしれません。

※エビデンスなし

 

安静時の心拍数を定期的に測定することはとても有用です。

心臓が無理している時は、体のメカニズムの関係で心拍数が上昇します。

 

自宅で定期的に測定することでデータを蓄積し、心拍数が通常時より上昇していれば体の異常を疑いましょう。

 

目安としては小型犬で1分間あたり60-80回です。

元々これより低い回数だったのに60-80回の心拍数に上昇しているケースも要注意です。

 

心拍数は直接胸に耳を押し当てるか、体の中心からやや左側の胸に指先を当てて鼓動が分かりやすい部分で測定しましょう。

 

他に内股の動脈は拍動感覚自体は分かりやすいのですが、動物に触りながらじゃないと位置(※)が非常にお伝えしづらいです。

※ふとももの内側の一番根本部分

心臓の雑音を指摘された時は?

基本的には早期のレントゲンと心臓エコー(できれば両方、どうしても片方だけなら心臓エコー)をお勧めします。

 

病院によっては、血圧検査を追加したり預かって昼間検査や別日での検査になるかもしれません。

 

本記事では心臓病で一番発生率の高い僧帽弁閉鎖不全症に絞っていますが、雑音が出てくる心臓病は他にもたくさんあります。

 

極端な話、心臓病ではなくて貧血で心雑音が出ていることもあります。

まずは、心雑音がどういった病気として出てきているかを把握しましょう。

 

実際のところは、検査を希望されず心雑音や心拍数の悪化がないか経過観察から始めることもままあります。

 

早期の検査は原則論として覚えていただきつつ、後は動物の体調や飼い主様の時間の都合や費用面などで相談していきます。

 

あと、時々心雑音を聴取したという理由だけで心臓薬(ACEIと呼ばれるジャンルの薬)を処方されているケースを見かけます。

 

ACEI自体は比較的副作用の少ない良い薬ではありますが、検査無しでいきなり投薬に入ること通常はありません。

 

体調が優れず検査ストレスを回避して投薬を先行するなど何か事情があったのかなとは思いますが、かなり例外的な処方法と考えてください。

僧帽弁閉鎖不全症は必ず薬を飲む必要がある?!

答えはNoです。

 

症状が進行すれば残念ながら投薬は避けられません。

正確には避けていただくのもありですが、その場合は本格発症までの日数が短くなります。

 

僧帽弁閉鎖不全症は重症度によってstageA~D(Dが重症)に分類されます

更にstageBだけstageB-1とB-2というサブステージに分類されます。

 

stageAまたはstageB-1については、今の獣医心臓病治療としては無投薬で経過観察になります。

 

stageB-1に該当するわんちゃんは心雑音がありながらも投薬する必要のない状態と言えますね。

 

stageB-2以降の僧帽弁閉鎖不全症に関しては投薬が推奨され、その量や種類は重症度に応じて増加していきます。

 

現時点ではstageB-2と診断した僧帽弁閉鎖不全症のわんちゃんには「ピモベンダン」という薬の内服開始を推奨しています。

正直投薬し忘れとかあるんだけど大丈夫かな…?

大丈夫と思いたいお気持ちはわかりますが大丈夫ではないです。

 

心臓薬に関してはどこの病院でもおそらくかなりシビアな指導が入ると思います。

処方日数と来院日に食い違いが出たら獣医師は必ずといっていいほど突っ込みを入れます。

 

 

私の経験としても、わずか1−2日切らしただけで明らかに状態が悪化した例もあります。

幸いその子たちはすぐさま投薬を再開したら速やかに体調が戻りましたが、重症な子ではそのわずかな投薬抜けが致命的になることもあります。

 

毎日続く投薬の中でどうしても1回、2回抜けてしまうというのはミスとしてあり得るし正直しょうがない場面もあると個人的には思います。

 

しかし、先のようなわんちゃんを経験している身としては「投薬はだいたいでいいですよ」なんてことは言えません。

何かの理由で投薬ができない、もしくはできなかった場合は、様子見せず必ずかかりつけ医に電話なりで確認を取ってください。

 

状況に応じて心臓薬を減薬したり休薬することはありますが、その判断は何頭心臓病の子を経験していようが飼い主様には不可能です。

くどいようですが必ずかかりつけ医に確認を取りましょう。

心臓病はどういうリスクがあるのか

僧帽弁閉鎖不全症と診断されたからには、致命傷を負う爆弾を胸に抱えていると心構えをしていてください。

 

もちろんstageBよりC、CよりDのほうが爆弾が破裂する危険度は上です。

しかし実際にいつ本格発症するかあるいは悪化するかは神様しか知りません。

 

我々は昨夜まで元気だったのに今朝ぐったりというわんちゃんを数多く経験しています。

 

どれだけ注意して、しっかり通院して、しっかり薬を飲ませても残念ながらそのリスクがゼロになることはありません。

 

これは心臓病の子の宿命と思ってください。

あなたが悪い訳でもその子が悪い訳でも全くありません。

 

呼吸や様子がおかしいと思ったらかかりつけ医もしくは夜間救急にためらわず連絡してください。

肺水腫などが発生したら時間との勝負になります

僧帽弁閉鎖不全症の外科について

私は僧帽弁閉鎖不全症の外科については素人ですので詳細な説明をすることはできません。

 

しかし、それでも言えることは外科が唯一根治を狙える治療法ということです。

※ものすごい厳密な話では根治ではないですが、ほぼ同じレベルと思ってください

 

内科治療はあくまで心臓病の進行を遅らせる、症状が出ない期間(無病期間)を伸ばすという目的で実施します。

ある意味緩和療法とも言えます。

 

対して、外科は手術に成功すればその後の長期生存を望めるため、もしかしたら今後の獣医療では内科と並んで当たり前の選択肢になる日がくるかもしれません。

 

しかし現時点では、手術難易度や専門性、機材の特殊性から僧帽弁閉鎖不全症の外科手術を実施できる医療機関はかなり限られます。

大阪では東大阪市の近畿動物医療研修センター附属動物病院様が有名です。

 

本項目だけでは、ぱっと見良いことばかりのように読めますが、手術リスクや手術費用などから誰も彼も外科がという話ではないことをご了承ください。

最後に

本記事はわんちゃんの心臓病の中でも僧帽弁閉鎖不全症に絞って話をまとめました。

あくまで知識の整理として程度ですので、細かい内容(投薬の種類や急性期の治療の仕方)などは省きました。

 

それに心臓病は僧帽弁閉鎖不全症だけではありません。

 

反対側の三尖弁閉鎖不全症も心筋症も不整脈も先天性奇形も、上げればキリが無いくらいあります。

それらは今回には無い症状を起こすこともあります。

 

空咳、動悸、頻呼吸以外にもわんちゃんの動きや体調に違和感を感じたら、なるべくすぐ動物病院を受診しましょう。