院長の木村です。

 

本日は『ねこの日』ですね。大切な我が子にお祝いのご馳走をあげる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

こういう時にオーナー様からも「うちの子は甘いものが好きでちょっとだけ与えているの」なんてお話を割とよく伺います。

実際に猫ちゃんは甘いものを好んでいるのでしょうか?

 

猫の味覚

実は猫ちゃんは「酸味」、「苦味」、「塩味」、「うま味」で味を判断しています。

わんちゃんは「甘味」を感じることができますが、猫ちゃんは感じていないことが研究で分かっています。

ちなみに敢えて与える方はいないと思いますが、「辛味」を感じる辛味受容体はあるみたいです。

参考文献:動物の味覚受容体(2014)

 

猫の味蕾(味を感じる細胞ユニット)は人の7000個、犬の1700個に対して実は500個以下しかありません。

そういう意味ではちょっと味音痴なのでしょうか?

 

でも、犬以上に猫では食べ物に対して強いこだわりを持つ子が多いですよね。

どうなっているのでしょうか。

猫が食べたくなる要素

まず第一に「匂い」です。

猫の嗅覚は高度に発達しており、また犬には無い独特の機能を持っていたりします。

そのため鼻炎などで鼻が詰まった時には、匂いでは食べていいものかの判断ができなくなるためかなり食欲が落ちます。

 

よく慢性の猫風邪症状で鼻水が固まって鼻を塞いでしまっている子がいますが、食欲を回復させるためにはこまめに拭いて通気させることが重要になります。

缶詰なんかは開けてから時間が経つと風味が幾分か飛んでしまうので、少しだけ温めて匂いを出してあげるのは良い作戦でしょう。

 

他の要素としてはもちろん味(特に苦味と酸味が影響あり)もありますし、それから水分含有量、硬さ、舌触り、栄養バランス、安心して食事をできる環境も重要です。

あとは意識しにくい要素ですが、猫そのものの性格(偏執的だとか飽き性)や今までの食事経験もあります。

 

経験則にはなりますが、野良時代が長くて飢えた時間が多かっただろうと推測される子は吐くまでガツ食いすることが多いです。(そして肥満になっていく。。)

 

ただし、一律に猫にはコレが良い!という指標は残念ながらまだありません。

 

いくら嗜好性が高くてもドライだけ食べ続けている猫ちゃんにはウェットは受け入れ難いです。

あの誰もが喜ぶハズのちゅ〜るでさえ、私の感覚では5%程度の猫ちゃんが食べません。

他の猫と喧嘩したり何かに怯えている状態では食事どころではありません。

 

食事の嗜好性についてはこのように色々な要素が複雑に絡んでいます。

結局のところは上で挙げた関連する要素を1個ずつ我が子で検証するというのが一番のようです。

もちろん病気の時は別

歯が痛い時に硬いものを食べたくなかったり、発熱している時に食べられないのは当たり前ですよね。

病気の時は、まずその治療が必要です。

 

ただ、一般的には食べないと体力が落ちていってしまうので何かしらは与えて時間を稼ぎたいところです。

 

そんな時は、ある種の抗精神薬を食欲増進剤として使うこともあります。

量を食べられない時にはハイカロリーの病院食缶を舐めさせたり口の中に塗りつけたりします。

口を開けづらい時や食欲がほぼ無い時は流動食を使用することもあります。

 

これらは獣医療の範疇になりますので、かかりつけ医にご相談ください。

 

さて、結局猫に甘いものはあげないほうがいいの?

結論から言うとその通りです。

 

猫は肉食動物であり、糖分はタンパク質から合成します。

(※だからといって「肉」だけ与えていると必ず病気になるので注意してください。野生では獲物の腸などを食べて微量な栄養素を補っています。)

 

さて、質問ですが甘いものというのは何で作られているでしょうか?

 

 

そう、炭水化物(糖分)ですね。

 

アスリートが好んで食べることから分かる通り、我々人では炭水化物というのは血糖値を上昇させ即時性のエネルギー源になります。

 

しかし、肉食動物である猫は糖分をエネルギーとして利用する能力が極めて低い体をしています。

人の感覚で甘いものを与えた場合には、利用できない糖が血液中に溢れて簡単に高血糖になってしまいます。

 

持続的な高血糖は糖中毒という状態を引き起こし、膵臓のインスリン分泌量を減らします。

血糖値を下げるホルモンであるインスリンが減るので、高血糖に拍車をかけ、終いには糖尿病を引き起こしてしまいます。

 

よって、

 

に甘いものをあげる→糖尿病になる 

 

とすごく単純に考えてもらっても差し支えありません。

 

もちろん糖尿病は食事内容だけで発症するかが決まるものではありませんが、少なくとも甘いものを与える行為は発症のリスク因子となります。

 

 

余談ですが、糖尿病の管理ってものすっっっっっっごい大変です。

頻繁に通院検査が必要ですし、その分治療費も高額です。

なにより1日1−2回欠かさずご家族でインスリン注射をしていただくことになります。

 

打つインスリン量をちょっと間違えただけで低血糖になって発作を起こしたり亡くなることさえあります。

知人やホテルに預けてお出かけ?無理です。諦めてください。

 

一度本格発症してしまうと、無治療で放っておいたら必ず死んでしまいますので生涯の治療が必須となります。

 

 

…しかし、こんな話をした上でなんですが、ごく少量ずつ間隔を空けながらであれば私は甘いものを与えるのは「有り」と思っています。

 

最初に書いた通り、猫は甘味を感じませんので「甘いものが好き」というのは残念ながら勘違いです。

しかし、食べ物には甘味以外の色々な要素が複合していますので、「甘いもの」の中の他の成分や要素を好んでいることは十分有り得ます。

 

敢えて新しい甘いものを開拓して与える必要は感じません。

ただ、今までにあげた中でその「甘いもの」が結果的にとても喜んで食べてくれるようなら、それは日常の喜び・ご褒美としてはいいのではないでしょうか。

 

我々も体に悪かったりこれ以上のカロリー摂取は必要無いと知っていながら、お酒やジュースは飲むし甘いものも食べるし油ギトギトのお菓子や揚げ物を食べますからね。

 

動物たちにもそして関係しているご家族にも、好きなものをあげたら喜んで食べてくれてこっちも嬉しくなってという日々の潤いは必要かなと思ってます。

 

医者としての理想は体に良い食べ物の中で喜んで食べてくれるものを見つけることですけどね笑

 

 

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